「地震保険は必要?いらない?」 FPが考える備えとリスク管理の本質について

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南海トラフ地震や首都直下地震の発生リスクが叫ばれるなか、「地震保険って実はいらない?」と考える方も少なくありません。地震保険は、火災保険とセットで加入する必要があり、補償額も建物や家財の50%までと限られています。

そのため「支払いに見合う補償が受けられない」と感じて、加入を見送るケースも見られます。しかし、災害後の生活再建には、数百万円単位の費用がかかることも珍しくありません。今回の記事では、地震保険の仕組みや補償の限界、加入の判断ポイントを、FPの視点からわかりやすく解説します。「地震保険はいらない?」という疑問とその答えについて、一緒に探っていきましょう。

目次

誰もが揺れる国で暮らしている

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日本に住む以上、地震とは無縁でいられません。気象庁の統計によると、マグニチュード6以上の地震は毎年のように発生しています。地震はもはや「どこか遠くの災害」ではなく、私たち一人ひとりの生活に、密接に関わる現実的なリスクです。

こうした中で注目されるのが「地震保険」です。多くの家庭が火災保険に加入していますが、実は火災保険では、地震や津波による損害は補償の対象外です。地震が原因で、火災が発生して、家が全焼してしまった場合でも、地震保険に加入していなければ、保険金は1円も受け取れません。

つまり、地震という巨大リスクに対して、火災保険だけでは、全く備えになっていないのです。その一方で、「地震保険は補償が少なすぎる」「保険料が高い」「支払い基準が分かりづらい」といった不満の声も多いです。

では、地震保険は本当に必要なのでしょうか。それとも、費用対効果の低い「いらない保険」なのでしょうか。答えは、一概には言えません。一見すると不十分に見える制度ですが、国の財政・再保険制度・災害リスク分散といった、複雑な仕組みが存在しています。

出典:気象庁|地震について(表2 日本及びその周辺の地震回数)https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq7.html

地震保険は国と民間の共同制度

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地震保険は、一般的な保険とは少し異なる「特別な仕組み」を持っています。それは、民間の損害保険会社と国が、共同で運営する制度である点です。民間保険会社が単独で地震リスクを引き受けることは、現実的に非常に難しいため、国が財政面で大きく関与しています。

地震保険は、地震保険法に基づいて、運用されています。この法律が制定されたのは、1966年です。きっかけとなったのは、1964年の新潟地震でした。この地震では、地盤沈下や液状化などにより、甚大な被害が発生したものの、当時の火災保険では、地震による損害が一切補償されませんでした。

この「地震被害に対する無保護状態」を是正するために、国と保険業界が協力して、現在の地震保険制度が生まれたのです。

地震保険の対象となるのは、住宅(建物)と家財です。建物そのものに加えて、家具や家電、衣類といった生活必需品も補償の範囲に含まれます。地震保険では、火災保険の契約金額の30〜50%の範囲で設定できます。


地震は一度発生すると、被害額が数兆円単位になることも珍しくありません。仮に保険会社が単独で全額を負担すれば、1回の大地震で破綻してしまう恐れがあります。そのため、各保険会社は、地震保険契約の一部を「日本地震再保険株式会社」に再保険として引き渡します。

日本地震再保険は国の管理下にあり、一定の損害額を超えた場合は、政府が最終的に補償金の一部を負担する仕組みです。これにより、国民全体で地震リスクを分散して、制度を安定的に運用できるようになっています。

地震保険の基本内容
対象となるもの建物(家)と家財(家具・家電・衣類など)が対象。現金・宝石・美術品などは対象外。「生活に必要な最低限のもの」を守る保険。
契約のしかた地震保険だけでは入れない。火災保険にセットする形で契約する。火災保険が「火事など」、地震保険が「地震など」を補う関係。
補償の金額火災保険の30〜50%の範囲で決められる。 ・建物は最大5,000万円まで ・家財は最大1,000万円まで 例:火災保険3,000万円→地震保険は最大1,500万円。大きな地震の後に生活を立て直す資金を助ける目的。
損害の判断基準被害の程度で4段階に分けて支払われる: ・全損:100% ・大半損:60% ・小半損:30% ・一部損:5〜10%程度 専門の調査員が実際に被害を確認して決定する。
制度を支える仕組み保険会社と政府(財務省・日本地震再保険株式会社)が協力して運営。国が関わることで、どんなに大きな地震でも保険金が確実に支払えるようにしている。
リスクの分担保険会社は契約の一部を「日本地震再保険」に渡し、さらに大きな災害では政府が支払いの一部を負担。地震のリスクを国全体で分け合う仕組み。
補償に上限がある理由政府が財政的なリスクを抑えるため、支払い金額に上限がある。家の建て直し費用すべてをカバーする保険ではなく、「最低限の生活再建」を目的としている。
地域での保険料の差地域ごとの地震リスクで保険料が変わる。 ・南関東、東海、南海トラフ沿いなどは高い ・地震の発生確率や被害のデータをもとに設定。
制度の目的地震保険は「国民全体でリスクを助け合う公共制度」。完全補償ではなく、被災後に最低限の生活を立て直すためのお金を確保する仕組み。

【加入率の現状】地域差と心理的なハードル

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地震保険は、多くの家庭にとって重要なリスクヘッジの手段ですが、加入率には地域差や心理的なハードルが存在します。損害保険料率算出機構のデータによると、2024年度時点での地震保険の付帯率は、全国平均で約70%です。一見すると高い数字ですが、地域差が大きいのが実情です。

地震リスクが高い東北・九州などの沿岸地域では、加入率は80%を超えています。これらの地域では、過去に大規模な地震や津波被害の経験があり、住民の防災意識も高いため、地震保険の必要性が広く認識されています。


一方で、比較的地震リスクが低いとされる北陸や内陸の一部地域では、加入率60%台にとどまります。地震発生の確率が低いと考える人や、過去に被害を経験していない世帯ほど、「地震保険は不要」と判断する傾向があるのです。

出典:損害保険料率算出機構|グラフで見る!地震保険統計速報 https://www.giroj.or.jp/databank/earthquake.html

地震保険が「いらない」と感じる理由その1:補償が十分ではない

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地震保険への不満で最も多く挙げられるのが、「補償額が十分ではない」という点です。地震で住宅が全壊した場合でも、地震保険で受け取れる金額は、火災保険で設定した保険金額の30〜50%までに制限されています。たとえば、火災保険で建物を3,000万円と設定している場合、地震保険で受け取れる最大額は、1,500万円程度です。

もちろん、これは住宅を建て直す費用には到底足りず、全額を補填できるわけではありません。さらに、支払われる金額は損害の程度によって、大きく変動します。地震保険では損害の程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4段階で評価します。

たとえば「全損」と判定されれば、保険金額の全額が支払われます。一方で「一部損」と評価された場合は、わずか保険金の5%しか受け取れません。実際に、壁のひび割れや屋根瓦の落下など、被害は発生しているものの、建物全体の損害額が小さい場合、「一部損」と判定されるケースは多いです。

その結果、受け取れる金額が数十万円程度にとどまり、「ほとんど補償されなかった」という不満が生じます。地震保険は、あくまで生活再建のための最低限の資金確保を目的としており、住宅の全額再建を保障するものではありません。そのため、「保険料を支払っても十分な補償を受けられないのでは」という心理が生まれやすく、これが「地震保険はいらない」と感じる人の根拠になっています。

出典:財務省|地震保険制度の概要 https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm

地震保険が「いらない」と感じる理由その2:地域による保険料格差

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地震保険の保険料は、建物の構造だけでなく、所在地の地震リスクによって大きく異なります。たとえば、首都直下地震の発生が指摘される東京や神奈川では、同じ条件の住宅でも、年間保険料が地方の約2倍に設定されることがあります。

このような地域格差は、加入をためらう心理的要因としても大きく影響するでしょう。リスクの高い地域ほど保険料が高くなるため、「必要性は理解しているが、家計負担が大きくて加入できない」というケースが多く見られます。

特に都市部では、住宅ローンや固定資産税といった他の支出も重なるため、年間数万円〜十数万円の保険料は、家計にとって決して小さくない負担です。さらに、保険料は近年上昇傾向にあります。家計に余裕のある世帯は、高額な保険料でも加入できるかもしれません。

しかし、低所得世帯では「地震保険に加入したくてもできない」という状況が発生します。災害リスクに対する備えが、経済状況によって大きく左右されることになり、防災面での社会的不平等が広がる懸念もあるのです。

地震保険が「いらない」と感じる理由その3:支払い基準の不透明さ

地震保険では、保険金の支払い額は被害の程度によって決まる仕組みになっています。先ほどの通り、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4段階で評価されますが、この判定は、専門家による現地調査に基づいて行われます。しかし、判定基準は一般的に分かりにくく、被災者から「なぜうちは一部損なのか」「他の家は大半損だったのに」といった不満が出ることも多いです。

特に、木造住宅の場合、外見からは、損傷が少なく見えても、内部構造や基礎部分に大きな被害があるケースがあります。その場合、見た目の被害が軽いと評価されて、必要な補償が十分に受けられません。また、支払いまでの時間的な遅れも課題です。

大規模地震が発生すると、損害調査員が被災地に集中して査定に時間がかかります。そのため、被災直後に必要な生活資金や応急修理費を、すぐに受け取れない場合があり、資金繰りに困る世帯も少なくありません。

支払い基準の不透明さは、心理的な不安を増幅させます。「保険に加入しても、被害に遭ったときに、十分な支払いを受けられるか分からない」と感じると、加入意欲を削ぐ要因になります。これは、地震保険に対する信頼性の低下にもつながるでしょう。

それでも地震保険が果たす役割

地震保険には、先ほど触れた「補償額の限界」「保険料の高さ」「支払い基準の不透明さ」といった課題があります。しかし、それでも地震保険が果たす役割は決して小さくありません。むしろ、災害直後の生活再建を支える重要な制度としての意義があります。

  • 被災直後の資金確保手段としての重要性

大規模地震が発生すると、多くの家庭では、住宅の修理や生活再建に必要な資金が準備できません。地震保険は、このような状況において、資金を受け取れる仕組みとして機能します。建物全体の再建には足りない額でも、生活の立て直しや応急的な修理費、避難生活の費用に充てることが可能です。

具体的には、東日本大震災では、約1.3兆円もの地震保険金が、被災世帯に支払われました。これは、避難所や仮設住宅での生活支援、家具家電の購入、応急修理費の確保に活用されました。

  • 生活再建の「第一歩」を支える仕組み

地震保険は、決して住宅の全額再建を保証するものではありません。しかし、「生活再建の第一歩」を支える公的な仕組みとしての役割は明確です。

保険金が支払われることで、被災者は、金融機関からの融資や親族からの支援に頼ることなく、初期段階で必要な資金を手に入れられます。これは、災害発生直後の混乱を最小限に抑えるためにも重要です。生活基盤が早期に確保されることで、長期的な復興プロセスも円滑に進められます。

  • 社会全体のリスク分散にも貢献

地震保険は、個人にとっての安全網であるだけでなく、社会全体のリスク分散にもつながります。政府と民間保険会社がリスクを分担して、再保険制度を通じて、大規模災害にも対応できる仕組みです。この制度により、災害時の社会的混乱や財政負担が軽減されることになり、結果として、被災者を支える公的インフラの役割も果たしています。

  • 加入の意義を再確認

「補償額が足りない」「保険料が高い」と感じる人もいますが、それでも加入することで得られる安心感は大きいです。災害時に最低限の資金を確保できること、生活再建の第一歩を踏み出せることは、心理的な安心にもつながります。特に、都市部や地震リスクの高い地域では、被災後の生活を守るための最後の砦としての役割があります。

【保険以外の選択肢】多層的な備えの重要性

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地震保険は生活再建の支援となりますが、それだけに頼るのはリスクが残ることも事実です。そこで重要になるのが、複数の備えを組み合わせた多層的な対策です。ここからは、代表的な方法を3つご紹介します。

1. 耐震リフォーム・耐震診断

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建物自体を強化することは、そもそもの倒壊リスクを減らす最も直接的な方法です。耐震診断によって、住宅の弱点を把握して、耐震補強工事やリフォームを行うことで、大地震時の被害を最小限に抑えられます。

自治体によっては、耐震診断や耐震改修に対する補助金や、助成金制度を設けている場合もあります。たとえば、木造住宅の耐震補強工事費用の一部を補助する制度や、耐震診断を無料、または低額で受けられる制度です。このような制度を活用することで、費用負担を軽減しつつ災害リスクを減らせます。

2. 貯蓄・共済制度の活用

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地震保険だけでは十分な補償が得られない場合、自己資金の確保が大切です。日頃から、災害時に使える貯蓄を用意しておくことで、応急修理費や生活再建費に柔軟に対応できます。

また、地域の共済制度や生活再建支援型の制度を利用することも有効です。

保険よりも柔軟な条件で、少額の支援金を受け取れる場合があり、災害直後の資金不足を補う手段として注目されています。共済や自治体支援は、地震保険ではカバーできない生活費や、一時的な避難費用にも使えます。

3. 防災備蓄・地域コミュニティの整備

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災害時には、現金だけでなく物資や情報の備えも重要です。食料や水、生活用品の備蓄をしておくことで、被災直後の生活を支えられます。また、地域の防災訓練や自治会の連携体制を整えておくことも、迅速な支援につながります。

たとえば、災害時に避難所への誘導や物資の分配を円滑に行える地域コミュニティは、生活再建の初動を大きく助けます。災害リスクを低減させるだけでなく、心理的な安心感を得る効果も期待できるでしょう。

地震保険の課題と今後の制度について

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地震保険は、災害時の生活再建や地域経済の安定に大きなメリットがあります。一方で専門家の間では、さまざまな課題と解決策が考えられています。

  • 課題1:補償と保険料のバランス

地震保険に関して最も多く指摘される課題は、「補償が低く、保険料が高い」という構造です。専門家の間では、このような課題を解消するために、国がより大きなリスクを引き受ける仕組みが、必要だと指摘しています。

この仕組みが実現すれば、低所得世帯や地震リスクの高い地域の住民でも、経済的負担を気にせず、地震保険に加入できます。結果として、社会全体の防災力を底上げすることにもつながるでしょう。地震保険の制度設計を見直すことで、災害リスクに対する社会的な備えが、より公平で効果的なものになります。

  • 課題2:支払いの透明性と迅速性

地震保険では、被害の程度を正確に評価するために、専門家による現地調査が必要です。全損・半損・一部損といった判定基準は複雑で、建物の構造や損傷の程度によって、判断が変わります。このような問題を解決するため、専門家の間では、AIや画像解析、ドローンや衛星画像を活用した被害判定システムの導入を提案しています。

これにより、現地調査の効率が大幅に向上して、被害状況を迅速かつ公平に分析できるのです。自動化された判定システムを活用することで、人為的な評価のばらつきを減らして、加入者が納得しやすい補償額を算出できます。結果として、支払いの遅れや不透明感が軽減されて、被災者が早期に資金を確保できる環境が整うと、期待されています。

  • 課題3:地域・世帯に応じた柔軟な制度設計

現在の地震保険は、全国一律のルールに基づいて運営されており、地域特性や世帯状況による柔軟性が限定的です。地震保険の柔軟性を高めるために、専門家は地域や世帯の状況に応じた制度設計の必要性を指摘しています。

まず、地域単位での地震共済制度です。これは、特定の地域やコミュニティ内で加入者同士がリスクを共有する仕組みで、地域ごとの被害状況に応じた支援が可能になります。地震リスクの高い地域では、地域内での資金循環が早まり、迅速な生活再建を支える効果が期待されます。

次に、自治体連携型の再建支援制度です。自治体が独自に補助金や低利融資を組み合わせ、被災者の住宅修理や生活再建を支援する制度です。これにより、公的支援と民間保険を組み合わせたより柔軟な対応が可能になり、被災者の多様なニーズに応えられます。

さらに、所得や家族構成に応じた保険料・補償の差異化も検討されています。加入者の経済状況や世帯構成に応じて保険料や補償額を柔軟に設定することで、低所得世帯でも加入しやすくなり、災害リスクに対する公平性を高めることができます。

仕組み内容
地域単位での地震共済制度特定の地域やコミュニティ内で、加入者同士がリスクを共有する仕組み。地域ごとの被害状況に応じた支援が可能で、資金循環を早め、迅速な生活再建に役立つ。
自治体連携型の再建支援制度自治体が独自に補助金や低利融資を組み合わせ、被災者の住宅修理や生活再建を支援する制度。公的支援と民間保険を組み合わせることで、多様なニーズに応える柔軟な対応が可能になる。
所得や家族構成に応じた保険料・補償の差異化加入者の経済状況や世帯構成に応じて、保険料や補償額を柔軟に設定する。低所得世帯でも加入しやすく、災害リスクに対する公平性を高める。

地震保険を「いらない」と言い切るのは危険

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現行の地震保険制度には、補償額の上限や保険料の高さ、支払いの遅れなど、明確な課題が存在することは事実です。そのため、「地震保険はいらない」と考える人がいるのも理解できます。しかし、制度の不十分さを理由に、加入を完全に否定することは危険です。

政府の地震調査研究推進本部によると、今後30年以内に首都直下地震が発生する確率は約70%とされています。さらに、南海トラフ地震も同程度の確率で発生すると予測されているのです。これは、日本の主要都市や沿岸地域に暮らす人々にとって、決して無視できない数字です。もし、このような高リスク地域で、何の備えもしなければ、家や財産だけでなく、生活基盤そのものを一瞬で失う可能性があります。

地震保険は、決して「家を完全に再建できる万能の保険」ではありません。補償額には上限があり、支払い判定も細かく分かれているため、期待通りの金額を受け取れないケースもあります。しかし、それでも最低限の資金を確保して、生活の立て直しを早める手段としての役割は、非常に大きいです。実際、過去の大規模地震では、多くの被災者が地震保険を活用することで、生活再建や住宅の再建の第一歩を踏み出すことができました。

さらに、地震保険は個人だけでなく、社会全体の防災力を支える役割も持っています。被災者が早期に資金を得られることで、建設業や流通業、金融業などの関連産業が迅速に動き出して、地域経済の停滞を防げます。つまり、加入者が地震保険を活用することは、個人の安全だけでなく、社会全体の安定にもつながるのです。

出典:内閣府|防災情報のページ 想定される大規模地震 https://www.bousai.go.jp/kyoiku/hokenkyousai/jishin.html

災害時に忘れがちな「デジタル資産」も守る意識を

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地震や台風といった災害は、家屋や家財などに被害をもたらすだけでなく、スマートフォンやPCなどの、デジタル機器の破損や紛失にもつながります。現代社会では、銀行や証券口座の取引明細、契約書類、保険情報、家計簿、さらには家族との写真や思い出まで、ほとんどがデジタル上に保存されているでしょう。

これらは、いわば「デジタル資産」であり、災害時にアクセス不能になったり、パスワードがわからなくなったりすると、資産の確認や相続手続きに支障をきたす可能性があります。たとえば、本人しかログイン情報を知らないネット証券や仮想通貨口座で、もしスマートフォンが故障して、認証コードが受け取れなくなれば、家族がその存在を把握できないまま、資産が事実上「消失」するかもしれません。

このような事例は近年、災害や急逝をきっかけに実際に増えており、「物理的な備えだけで安心とは言えない」時代になりつつあります。デジタル資産を守るためには、まずアカウント情報やパスワードの一覧を安全な方法で記録しておくこと、そして家族がどこに何があるのかを、最低限把握しておくことが重要です。

また、クラウド上のデータについても、バックアップ先を分散するなど、一部が失われても、全体が守られる仕組みを作っておくと安心です。地震保険が「建物や家財を守る」ための備えであるように、デジタル資産の整理は「情報や記録を守る」ためのもう一つのリスク対策になります。この両輪をそろえることで、安心できる防災体制が整うといえるでしょう。

専門の「デジタル遺品整理業者」に相談してリスクを最小限に

とはいえ、デジタル資産の整理や引き継ぎを、一人で完璧に行うのは容易ではありません。アカウント数が多いほど、どれが重要でどれを残すべきなのか、判断が難しくなります。また、パスワード管理やクラウドのバックアップ設定を誤ると、逆にセキュリティリスクを高めてしまう可能性もあります。

そこで近年注目されているのが、「デジタル遺品整理業者」の存在です。これらの専門業者は、PCやスマートフォン、オンライン口座などの情報整理をサポートします。いざという時に、家族が円滑に手続きできるような仕組みづくりを支援してくれます。

たとえば、

  • デジタル資産の現状把握(どのような口座・契約があるのか)
  • パスワードやデータの安全な引き継ぎ方法の提案
  • 故障した機器や削除データの復旧支援
  • 死後や災害時に備えたデータ削除・整理プランの設計

といった幅広いサービスを提供しています。これらを事前に整えておけば、万が一の際にも、家族が混乱せず、金融資産や重要データを確実に確認・活用できます。

FPの立場から見ても、物理的な補償(地震保険)と情報面の管理(デジタル資産整理)は、どちらも「家族を守るリスクマネジメント」の一環です。お金や家を守る備えだけでなく、「情報を守る備え」を意識することが、これからの時代に求められる新しい防災対策です。

まとめ

地震保険の議論は、単純に「いるのか・いらないのか」という二択で片付けられるものではありません。現行制度には、補償額の上限や保険料の高さ、支払いの遅れといった課題があります。その一方で、高い確率で発生する大規模地震への備えとして、一定の役割を果たすことも事実です。

そのため、重要なのは、自信の生活環境や住宅の状況、経済力に応じて、どのようにリスクを分散させて、総合的な備えを構築するのかという視点です。地震保険だけで家を完全に再建することは難しいですが、被災直後の生活を立て直すための初期資金としては、非常に有効です。火災保険や貯蓄だけではカバーしきれない地震リスクを、ある程度補えます。

地震保険に加入することは、個人の生活再建を支えるだけでなく、地域社会や経済全体の安定につながります。また、耐震化やリフォーム、耐震診断の活用、防災備蓄や緊急生活用品の準備、地域コミュニティの支え合いなどを組み合わせることで、備えはより多層的かつ強固なものになるでしょう。

地震保険は「万能ではないが、無意味でもない」存在です。私たちが取るべき姿勢は、単なる「保険加入」ではなく、多層的・多角的なリスクマネジメントになります。地震保険をひとつの手段として位置づけ、貯蓄や耐震化、防災備蓄、地域連携などと組み合わせることで、はじめて現実的で持続可能な備えが、実現するといえるでしょう。

この記事の監修者

 

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石坂貴史

マネーシップス運営代表・FP

証券会社IFA、2級FP技能士、AFP、マネーシップス運営代表者。デジタル遺品や相続をはじめとした1,100件以上のご相談、記事制作、校正・監修を手掛けています。金融や経済、相続、保険、不動産分野が専門。お金の運用やライフプランの相談において、ポートフォリオ理論と行動経済学を基盤にサポートいたします。

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