暗号資産は節税できる?相続時にやってはいけないことを解説

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暗号資産が高い評価額となりやすく、相続税の節税が気になる人も多いでしょう。ただし、相続開始後の節税対策は限られています。また、生前から安全な管理・対策が欠かせません。

「亡父が仮想通貨を持っていたらしいが、相続税が不安だ

「暗号資産は生前から相続対策が欠かせないと聞いたけど、その理由を知りたい」


暗号資産(仮想通貨)は、銀行口座や株式よりも新しい資産であり、相続時の取り扱いには十分な注意が必要です。また、パスワードや復元フレーズを失うと、法的にも実務的にも「存在しない財産」となってしまうという危険性もあります。


そこで、本記事では国税庁の最新指針と2025年度税制改正の動向を踏まえ、「暗号資産の節税や、相続時にやってはいけないことを中心に詳しく解説します。

目次

暗号資産と相続の関係とは

暗号資産は時々コラム内にも触れているように、所有者が亡くなると相続財産の対象となります。相続財産の対象になった場合、主に以下の点に注意する必要があります。

・遺産分割協議の対象になる

・相続税の課税対象になる

・解約等の手続きを行い、新たに取得する方に財産を移す

国税庁は明確に「暗号資産は相続財産に含まれる」と定義しています。市場が活発な暗号資産の場合は、相続開始時点(被相続人が亡くなった日)の時価で評価し、他の資産と合算して相続税が課されます。

相続開始後に暗号資産の「節税」は可能?

暗号資産は実験的な市場の段階から成熟へと移行が進んでおり、気軽に一般の方々も投資に参加するようになりました。bitFlyerのような主要市場はインフラ化と信頼構築で重要な役割を果たす一方、無名プラットフォームを用いた詐欺は増加しています。暗号資産をうまく使えば相続税を節税できる」といった情報を見かけますが、現実的には亡くなられた時点の時価評価、もしくは仮想通貨の種類や取引実態などを総合的に考慮した金額で相続税計算を行う必要があり、相続開始後の節税策は控除や特例に限られるでしょう。

相続税の評価額を恣意的に下げることは、後に「過少申告加算税」や「重加算税」の対象となりかねないため、適切に税理士と共に評価を確定させることが大切です。

相続開始後に相続税対策を行う方法とは

相続開始後にできる相続税対策には、控除・特例があります。

種類適用される内容概要
基礎控除3,000万+(600万×法定相続人数)相続財産から差し引ける非課税枠。

配偶者の税額軽減 (配偶者控除)配偶者が取得した遺産のうち、法定相続分相当額または1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税がかからない。遺産分割協議が整い、申告期限までに配偶者が財産を取得していること。相続税の申告が必要。
未成年者控除相続人が20歳未満の場合、その年齢に応じて税額を控除。相続人が20歳未満であること。日本国内に住所があること。
障害者控除相続人が障害者の場合、その年齢・障害の程度に応じて税額を控除。相続人が障害者であること。日本国内に住所があること。
相次相続控除短期間(10年以内)に複数回相続があった場合、前の相続で課税された相続税の一部を控除。1回目の相続から10年以内に2回目の相続が発生し、2回目の相続の相続人に1回目の相続で相続税が課税されていたこと。
小規模宅地の特例被相続人等の住んでいた宅地や事業用宅地などについて、一定の面積まで評価額が最大80%減額される。確定申告要、家なき子特例など注意すべきポイントがある。
贈与税額控除相続開始前3年以内(※)に被相続人から暦年課税贈与を受けていた場合、その贈与財産を相続財産に加算(生前贈与加算)し、既に納めた贈与税額を相続税から差し引く。相続開始前3年以内(※)に被相続人から贈与を受けていたこと。

※ 生前贈与加算の期間は法改正が行われました。2024年(令和6年)1月1日以降の贈与から段階的に加算期間が7年間に延長されます(2031年までに完了)。現行の3年間は2023年12月31日までの贈与に適用されます。

やってはいけない暗号資産の節税行為とは

次のような「やってはいけない節税行為」は避けましょう。

  • 評価額を勝手に低く見積もる
  • 売却損を理由に課税逃れを狙う
  • 名義を偽装して他人に移す

これらはすべて税務調査で指摘される可能性が高い行為です。暗号資産の取引履歴はブロックチェーン上で残るため、「隠せる財産」ではありません。

暗号資産を安全に遺すために必要な3つのこと

暗号資産は相続税に注目が集まりがちですが、安全に次世代へと継承していくためには節税以前の注意点もあります。詳しくは以下です。

1.取引所のログイン情報だけを残さないこと

暗号資産は厳重に管理したい資産ですが、遺言書やエンディングノートに取引所のログイン情報だけを記載しても2段階認証や確認書類が揃わないと、家族はアクセスできません。ご自身の運用先が相続時にはどのような手続きが必要となるか調べた上で、正しく記載することが大切です。

2.バックアップをクラウド上に放置しないこと

暗号資産を自己管理するウォレットの秘密鍵やリカバリーフレーズ(シードフレーズ)は、資産にアクセスするための生命線です。これを安易にクラウドストレージ(Google Drive、iCloud、Dropboxなど)上にファイルや画像として保存し、そのまま放置するのは極めて危険です。

クラウドサービスは便利ですが、ハッキングやアカウント乗っ取りのリスクがゼロではありません。もしアカウントが侵害された場合、秘密鍵が流出し相続人によるアクセス以前に、第三者による盗難の可能性が非常に高くなります。

エンディングノートなどの安全な保管方法や、高額の資産運用が行われている場合は遺言執行者の指定による遺言書の作成なども検討し、安全な対策が欠かせません。

3.暗号資産を安全に保管する

相続で最も深刻なのは、「ウォレットが見つからない」「復元フレーズが分からない」ケースです。暗号資産は鍵を失うリスクを避ける必要があります。復元やデジタル遺産調査の専門家でも対応が難しいケースがあるため、未然にトラブルを防ぐ対策が欠かせません。

秘密鍵・復元フレーズの安全な保管はもちろんのこと、マルチシグウォレットの活用や家族間での取引状況の共有、デジタル資産に精通する専門家へ安全対策の相談を行っておくこともおすすめです。

暗号資産等のデジタル資産の未来はどうなる?

現在、暗号資産を含む「資産課税の見直し」を行うべきという声は高まっています。暗号資産の売却益は雑所得(最大55%)として総合課税されますが、分離課税への移行は未定です。

相続税の分野でも、評価方法の明確化やデジタル遺産の扱いを整理する方向性が出ています。与党内では「ブロックチェーン上の財産の所在をどう証明するか」を焦点とする声が上がっており、金融庁はすでに暗号資産業者に対し死亡時対応マニュアルの整備を要請しています。これまで相続時には手続の煩雑さに困惑される人も見受けられましたが、今後改善する可能性は高いと見られています。

税率そのものに即時の変更はないものの、「デジタル資産の承継」を制度化する議論が2026年度以降に本格化する見込みです。

暗号資産以外のデジタル資産にも注意

暗号資産だけでなく、デジタル資産全般の相続や管理にも注意が必要です。近年ではNFT(非代替性トークン)やデジタル著作権なども財産価値を持つケースがあります。これらはブロックチェーン上に記録される点では暗号資産と類似しますが、扱いは少し異なります。

  • NFTやデジタル著作権の評価NFTは唯一性と市場流動性などによって価格が変動します。オークションや二次市場での取引価格が評価基準となりますが、取引履歴が少ない場合や流動性の低い作品は評価が困難です。著作権付きデジタル作品も、権利の譲渡範囲や利用制限があるため、相続財産として計上する際には権利範囲を正確に確認する必要があります。
  • 相続・管理のリスク復元フレーズや秘密鍵と同様に、NFTやデジタル著作権のウォレット情報を失うと、資産を相続人が利用できなくなるリスクがあります。特にNFTは取引所ではなく外部ウォレットに保管されることが多く、復元手順の把握が不十分だと財産消失の原因となるおそれがあります。

暗号資産だけではなく、被相続人が生前にその他のデジタル資産を運用している可能性もあるため、今後相続手続きはより複雑化するおそれがあります。

NFTや著作権付きデジタル作品は資産評価の面でも新しい分野であり、生前から専門家に相談しながら安全な相続対策を進めていくことが大切です。

まとめ

暗号資産の相続は、「節税」はもちろんのこと「消失を防ぐこと」にも意識を向ける必要があります・ウォレットの鍵を守ることや、正確な情報の記載など、安全な相続対策を日頃から意識しておくことが望ましいでしょう。

暗号資産は発展が著しい資産であるため、相続税などの実務は今後大きく変化していく可能性があります。常に情報をアップデートさせながら、安全な運用・想像を心がけることが大切です。

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