
親が認知症になったとき、もっとも深刻な問題の一つが「お金」と「相続」の管理です。判断力が失われると、銀行口座の凍結や不動産の売却制限、遺言の無効化など、家族でも自由に財産を動かせなくなるケースが多く見られます。
結果として、生活費の確保や介護費の支払いに支障が出たり、兄弟間での不信や争いに発展することもあります。こうした事態を防ぐためには、「認知症になる前」に、法的・実務的な備えを整えておくことが不可欠です。
今回の記事では、認知症が相続や財産管理に与える影響を踏まえて、発症前に行うべき、具体的な準備や制度の活用方法を、専門的な観点からわかりやすく解説します。家族が困らないために、今のうちに何をすべきなのか、その答えを整理していきます。
認知症と相続の関係

高齢化社会が進む日本では、認知症を抱える方や、その家族の数が年々増加しています。それに伴い、相続に関するトラブルも少なくありません。特に、親が認知症を発症すると、預貯金や不動産、株式などの財産管理や、遺産分割に関して家族間で意見が対立して、場合によっては、思わぬ争いに発展するケースもあります。
相続トラブルの多くは、認知症の発症をきっかけに起こることが少なくありません。「親はまだ元気だから大丈夫」と考えて、相続や財産管理の準備を、後回しにしてしまう方も多いのです。しかし、認知症は徐々に進行するため、気づかないうちに判断能力が低下して、財産管理や遺言作成に支障が出ることがあります。
高齢の親が単独で行う契約や贈与は、後に無効とされる可能性があり、家族間のトラブルに発展するリスクが高まります。そのため、認知症と相続の関係を正しく理解して、発症前から適切な準備をしておくことが非常に重要です。
認知症とは何か

認知症とは、記憶力・判断力・思考力といった「認知の力」が低下して、生活に支障が出る状態のことです。単なる物忘れとは違い、生活全体に影響します。たとえば、財布の管理や支払い、家事などが難しくなり、時間や場所の感覚もあいまいになります。本人だけでなく、家族にも安全面や生活面で大きな負担が生じます。
認知症の主な種類
認知症にはいくつかのタイプがあり、原因や症状の現れ方が異なります。代表的な3つを挙げます。
- アルツハイマー型認知症
最も多いタイプです。初期は物忘れが目立ち、次第に判断力や日常生活の力が落ちていきます。買い物や家事、金銭管理が難しくなり、進行すると、家族の支援が欠かせません。
- レビー小体型認知症
幻視(実際にはないものが見える)や妄想が特徴です。症状が日によって変わることがあり、動作が遅くなったり歩行が不安定になったりします。転倒や事故に注意が必要です。
- 血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害が原因で起こります。突然発症することが多く、体の麻痺を伴うこともあります。記憶だけでなく、言葉や感情のコントロールにも影響が出るため、リハビリや医療支援が重要です。
認知症は、進行する病気で、進み方は人によって異なります。早期発見と医療的な支援、生活環境の整え方がその後を大きく左右します。
出典|厚生労働省 若年性認知症ハンドブック https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/guidebook_1.pdf
判断能力の低下と法律上の問題
認知症が進むと、自身の意思で契約や財産管理をする力(意思能力)が失われることがあります。意思能力が不十分なまま行った契約や贈与は、後に無効になることがあります。たとえば、認知症の親が、不動産売買や高額な契約を結んでも、判断能力がなかったと判断されれば、契約は取り消される可能性があるのです。預金の引き出しやローン契約なども同様です。
日常生活でも、支払い忘れや書類紛失、服薬ミスなどが増えると、家族の負担が大きくなります。そのため、まだ判断力があるうちに、次のような準備をしておくことが重要です。
- 財産の整理と目録の作成
- 遺言書の作成
- 家族信託や成年後見制度の検討
こうした対策を早めに進めておくことで、後のトラブルを防ぎ、家族の生活を守ることができます。
相続の基本について

相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産や権利・義務を、家族などの相続人が引き継ぐことです。相続できる人(法定相続人)は、民法で決められており、主に配偶者・子ども・親・兄弟姉妹が対象です。配偶者は必ず相続人となり、子どもがいれば、子どもも相続します。親や兄弟姉妹が相続するのは、子どもがいない場合などに限られます。
相続の対象となる財産には、現金や預貯金、不動産、株式、投資信託などの資産のほかに、生命保険や未払いの給与、借金なども含まれます。つまり、相続とは「財産を受け取ること」だけでなく、「負債や契約上の義務を引き継ぐこと」も意味します。
そのため、相続前に財産の内容を整理しておくことが、トラブルを防ぐうえで、とても大切です。たとえば、不動産を複数の子どもで相続する場合、管理方法や売却の方針を決めておかないと、後々争いが起きやすくなります。現金や預貯金の分け方があいまいなままでは、「不公平だ」と感じる人が出て、家族間で揉める原因にもなるでしょう。
遺言の重要性
遺言がない場合は、民法で定められた「法定相続分」に基づいて、財産を分けることになります。しかし、兄弟や親族の間で意見が合わず、トラブルに発展するかもしれません。
特に、高齢者の家庭では、財産の種類が多かったり、不動産をはじめとした分けにくい財産があったりするため、分割方法が複雑になりやすいです。そのため、自身の意思を生前に遺言として残しておくことが、家族の負担を減らすうえで、とても大切です。
遺言には主に以下の種類があります。
- 自筆遺言
本人が全文を自筆で書き、署名と押印を行う遺言です。手軽に作成できる一方で、書き方や内容に不備があると、無効とされるリスクがあります。財産目録を添付する場合も、自筆での作成が求められるため、注意が必要です。
- 公正証書遺言
公証人が作成する遺言で、法的に最も安全とされます。作成過程で、公証人が内容を確認するため、形式上の不備や記載ミスによる無効のリスクが、ほとんどありません。また、公証役場で保管されるため、紛失の心配もなく、相続手続きがスムーズに進むメリットがあります。
- 秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしたまま、その存在を証明する方法です。本人が署名・押印した遺言を封筒に入れて、公証人に提出します。内容の秘密を保ちながら、遺言の存在だけを公的に証明できます。一方で、作成手続きや形式に不備があると無効となる場合があるため、注意が必要です。
遺言を作成する際の大きな注意点は、認知症が進行すると、遺言が無効になる可能性があることです。遺言の有効性には、作成時点で本人に十分な意思能力があることが必要です。
つまり、どの財産を誰にどのように渡すのかを理解して、判断できる状態であることが条件になります。認知症の症状が軽度であっても、判断能力の低下があると、遺言が後に争いの原因となることもあります。
そのため、遺言は意思能力が十分にあるうちに作成することが重要です。遺言作成後も定期的に内容を見直して、家族構成や財産状況の変化に応じて更新することで、より安心して相続が進められます。
相続税の概要
相続税とは、亡くなった人(被相続人)の財産を受け取るときに、相続人にかかる税金のことです。対象となる財産は、現金や預貯金、不動産、株式といった一般的なものだけではありません。生命保険金や死亡退職金、未払いの給与や退職手当なども含まれることがあります。
つまり、相続税は「財産を分けるときの税金」というよりも、「亡くなった人のすべての財産や権利・義務を含めて計算される税金」です。相続税の金額は、すべての相続財産を合計して、そこから「基礎控除額」を引いた残りに対して課税されます。
基礎控除額とは、税金がかからない範囲を決める金額で、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。たとえば、配偶者と子ども2人の場合、3,000万円+600万円×3=4,800万円が控除されます。この金額以内の相続であれば、相続税はかかりません。
また、認知症を発症しても、相続税の課税は免除されません。認知症が進むと、自身で財産を管理したり、納税手続きを行ったりするのが難しくなります。たとえば、銀行口座の解約や不動産の評価、株式の売却などを本人が行えない場合、成年後見人を立てたり、家族信託を使ったりして、手続きを進める必要があります。
相続税は、原則として現金で納めなければなりません。そのため、手元に現金が足りないと、不動産を売ったり、投資商品を換金したりする必要が出てきます。こうした事態を避けるためには、早めに納税資金を確保しておくことが重要です。
そのためにも、税理士をはじめとした専門家に相談して、財産の評価や相続税の見積もりをしておくことが大切です。早い段階で準備を始めれば、生命保険の活用や生前贈与など、無理のない節税対策が行えるでしょう。
| ポイント | 内容 |
| 相続税とは | 亡くなった人の財産を受け取ったときにかかる税金 |
| 対象となる財産 | 現金、預金、不動産、株、生命保険金なども含まれる |
| 課税対象になる額 | 財産の合計から「基礎控除額」を引いた分が課税対象 |
| 基礎控除額の計算 | 3,000万円+600万円×法定相続人の人数(例:配偶者+子2人=4,800万円) |
| 不動産や株がある場合 | 金額が大きくなりやすいので、相続税がかかる場合が多い |
| 認知症になった場合 | 相続税は免除されない。家族や後見人が、手続きや納税を助ける必要がある |
| 納税は現金が基本 | 現金が足りない場合、不動産の売却で納税資金を用意する必要がある |
| 事前準備が大切 | 早めに財産や納税額を把握して、専門家に相談すると安心 |
| 節税対策の方法 | 生命保険活用や生前贈与などがある |
認知症に備えた相続対策

認知症や相続トラブルに備えるためには、できるだけ早期から準備を始めることが重要です。特に、判断能力が十分にあるうちに行う対策は、将来の家族の安心やトラブル回避に直結します。ここでは、具体的に取り組める代表的な方法を紹介します。
- 財産目録の作成
まずは、所有するすべての財産を整理して、財産目録として一覧にまとめることが大切です。財産目録には、現金や預貯金、不動産、株式、投資信託、生命保険など、相続の対象となるすべての財産を記載します。これにより、家族全員が財産の内容や規模を把握できます。財産目録を作成する過程で、不足している情報や必要な資産が明確になるでしょう。
- 家族間の話し合い
財産目録を作成したら、次に家族全員で将来の財産管理や、遺産分割について話し合うことが重要です。話し合いを通じて、相続に対する家族の考え方や、希望を共有して、合意形成を図ることができます。たとえば、長男・次男・配偶者など、複数の相続人がいる場合、事前に意見をすり合わせておくことで、後々のトラブルを大幅に減らせます。話し合いの内容を文書化しておくと、後に不明点や誤解が生じた際にも役立つでしょう。
- 公正証書遺言の作成
さらに、法的に有効性の高い公正証書遺言を作成しておくことも有効です。公正証書遺言は、公証人が作成して保管するため、遺言書の紛失や内容の不備による無効リスクがほとんどありません。また、認知症が進行する前に作成しておくことで、判断能力が十分にある状態で、意思を明確に反映できるため、後の家族間トラブルを防ぐことができます。
このように、早期の段階から財産の整理、家族との話し合い、そして遺言書の作成を行うことは、認知症や相続トラブルに対する最も効果的な備えとなります。
成年後見制度の活用
成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどで判断が難しくなった人を、法律の仕組みで支える制度です。本人の代わりに財産の管理や契約の手続きを行うことで、財産の守りや家族間のトラブル防止につながります。
この制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。
- 【後見】
判断能力が大きく低下している場合に使われます。後見人が本人の財産を幅広く管理して、契約や手続きを代理で行います。本人が単独で行った契約は無効になることも多く、後見人の関与が欠かせません。
- 【保佐】
判断能力がある程度あるものの、不十分な場合に使われます。保佐人は、財産の売買や借入など、重要な契約について本人を助けたり、同意したりします。日常生活の買い物などは本人が行えますが、大きな契約は保佐人の支援が必要です。
- 【補助】
判断能力が少し低下している場合に使われます。補助人は、本人の希望や状態に合わせて、特定の手続きをサポートします。権限は限定的で、本人の自立を尊重しながら必要な支援を行う形です。
成年後見制度を利用する最大の利点は、財産管理の安全性と透明性が高まることです。後見人などが適切に管理することで、本人の財産が勝手に使われたり、不利な契約を結ばされたりする心配を減らせます。さらに、財産の状況が明確になるため、相続の際にも家族間の争いを防ぐ効果があります。
| 種類 | 判断力の状態 | サポートする人 | 主な内容 | 本人ができること |
| 後見 | ほとんど判断できない | 後見人 | 財産の管理、契約や手続きのすべてを代理して行う | 基本的に一人で契約はできない |
| 保佐 | 一部判断できるが、不安がある | 保佐人 | 大きな契約(不動産売買・借入など)には同意や手助けが必要 | 日常の買い物などは、自身で可能 |
| 補助 | 少し判断力が落ちている | 補助人 | 本人の希望に応じて、必要な手続きだけを限定的にサポート | 自立を尊重して、ほとんど自身で行動できる |
家族信託(民事信託)の活用
家族信託(民事信託)は、認知症発症前から財産を信頼できる家族に託して、管理や運用を任せられる制度です。成年後見制度や遺言とは異なり、財産の運用や収益の活用まで、柔軟に設定できる点が大きな特徴です。たとえば、遺言では単純な財産分割しかできませんが、家族信託を活用することで、不動産の管理や賃貸運営、投資運用なども家族に任せることが可能です。
家族信託の大きなメリットは、本人が認知症を発症しても、財産の凍結を防ぎ、スムーズに管理・運用できることです。家族信託は、遺言と併用することで、より柔軟な相続計画を実現することもできます。遺言による分割の指示と、信託による運用管理を組み合わせることで、財産を効率的かつ公平に引き継ぐことができるのです。
| 項目 | 内容 |
| 制度の概要 | 認知症の判断能力低下に備えて、財産を信頼できる家族に預けて管理・運用を任せる制度 |
| 他制度との違い | 成年後見制度や遺言と異なり、財産の運用・収益の使い道まで、柔軟に設定できる |
| 活用できる範囲 | 不動産の管理・賃貸運営・投資運用なども家族に任せられる |
| 主なメリット | 認知症になっても財産が凍結されず、スムーズに管理・運用できる |
| 遺言との併用効果 | 遺言で分割を決めて、信託で財産運用を管理することで、柔軟な相続計画が可能になる |
| 具体的な事例 | 認知症の親の賃貸物件を子が管理して、家賃収入を生活費・医療費に充てるケース |
| 成年後見制度との違い | 家庭裁判所の手続きで財産が凍結される心配がなく、収益の活用がスムーズ |
| 契約設計のポイント | 信託契約で賃貸運営・修繕・売却方針などを決めておくことで、家族間の争いを防止できる |
| 専門知識の必要性 | 法律・税務知識が必要になる。契約内容の設計には、専門家(弁護士・司法書士・税理士など)への相談が重要である |
| 活用の効果 | 認知症発症後も財産を有効に管理して、家族の生活を安心して支える相続計画を立てられる |
贈与や生前整理
認知症を発症する前に、贈与や財産整理を行うことは、将来の相続トラブルを防ぎ、相続税の負担を軽減するための重要な対策です。判断能力が十分にあるうちに計画的に行うことで、家族全員が安心して財産を引き継ぐことができます。
- 贈与の活用
贈与とは、生前に財産を家族に移転することです。贈与を活用することで、相続財産を減らして、将来の相続税を軽減する効果があります。高額な贈与には、贈与税が課せられるため、計画的に実施することが大切です。
年間110万円までの基礎控除を利用した贈与や、住宅取得資金や教育資金の非課税制度を活用することで、税負担を最小限に抑えながら、財産を移転することが可能です。
- 生前整理の実施
生前整理とは、不要な財産や権利義務を整理して、相続対象を明確にする作業です。生前整理を行うことで、家族間での「知らなかった財産」や「扱いに迷う資産」による争いを防ぐことができます。
たとえば、使っていない不動産や古い預貯金口座、不要な保険契約などを整理しておくことで、相続開始後の手続きがスムーズになり、無用なトラブルを避けられます。
FPの視点から考える認知症と相続の最新動向

日本は急速に高齢化が進んでおり、認知症の患者数も増加傾向にあります。それに伴い、相続に関わる法律や制度も変化して、認知症対策としての新しい手段が注目されるようになっています。特に、成年後見制度や家族信託といった制度の活用が、認知症発症後の財産管理や相続トラブル防止において重要性を増しています。
- 成年後見制度の利用増加
近年、成年後見制度の利用件数は増加傾向にあります。高齢者の判断能力低下に備えて、家庭裁判所を通じて後見人を選任して、財産管理や契約行為の代理を行うケースが増えています。
制度の利用は、本人の財産を保護して、家族間でのトラブルを防ぐうえで有効ですが、後見人の選定や運用方法によっては、家族間で意見の相違が生じることもあります。そのため、制度を理解して、信頼できる人や専門家を後見人に選ぶことが重要です。
- 家族信託の注目度の高まり
成年後見制度とは異なり、家族信託は、認知症発症前から財産の管理や運用を信頼できる家族に任せられる柔軟な制度です。特に、収益不動産や事業用資産を持つ家庭では、家族信託を活用することで、財産凍結を避けつつ安定的に運用して、生活費や医療費に充てることが可能です。専門家のサポートを受けながら、信託契約を設計することで、将来の相続トラブルを未然に防ぐことができます。
- 最新の裁判例から見える傾向
最近の裁判例をみると、事前に財産目録を作成して、遺言や贈与の内容を整えていた家庭ほど、相続トラブルを回避できる確率が高いことが示されています。逆に、財産の所在や内容が不明瞭であったり、遺言が不十分であったりする場合には、兄弟間や親族間での対立が裁判に発展しやすい傾向があります。
このことからも、早めの準備と制度の活用が、家族全員の安心を守るうえで、欠かせない要素であることがわかります。
高齢化社会における認知症と相続の問題は、もはや他人事ではありません。成年後見制度や家族信託などの制度を適切に理解し、事前に財産整理や遺言作成を行うことが、将来のトラブル防止につながります。
親が認知症になったときに困らないための相続準備とは?デジタル遺品の整理と専門家の活用

近年は、金融資産だけでなくデジタル遺品の整理も相続準備に不可欠です。デジタル遺品とは、ネット銀行や証券口座、暗号資産、クラウド上のデータ、SNSアカウントなど、オンラインで管理される財産を指します。この情報は、紙の書類のように目に見えないため、家族だけで整理するのは難しく、特に、親が認知症を発症すると、本人からアカウント情報や利用状況を聞き出すことは困難になります。
このような状況では、デジタル遺品業者を活用することが有効です。業者はオンライン上の資産や情報を安全に整理して、家族が必要なときに引き継げる形に整えます。暗号資産や複数のサービスを含むデジタル遺品は、個人だけでは情報が漏れやすく、誤った手続きが発生するリスクがありますが、専門家のサポートにより安全性を確保できます。認知症になる前に作業を進めることで、本人の意思を尊重しながら、円滑に相続準備を進めることが可能です。
認知症の段階別に考えるデジタル遺品整理
現代の相続では、現金や不動産に加えて、ネット銀行や証券口座、クラウドデータ、SNSアカウント、暗号資産などのデジタル遺品も重要な財産となります。認知症が進行すると、こうしたデジタル遺品の管理や引き継ぎが難しくなり、家族に大きな負担やトラブルが生じることがあります。
そのため、認知症の進行段階に応じて、資産の整理や管理方法を計画的に準備しておくことが不可欠です。以下では、軽度から重度までの認知症段階ごとに、デジタル遺品を安全に整理・引き継ぐ方法を紹介します。
- 軽度認知症(本人の意思がまだ明確な段階)
軽度の段階では、本人が意思決定できるうちに、どの資産を整理するのか、誰に引き継ぐのかを話し合い、記録しておくことが重要です。デジタル遺品業者は、アカウント情報やパスワードを安全に整理して、家族が緊急時に確認できる一覧表を作成します。また、暗号資産やクラウドデータなど、管理が複雑な資産も、専門的に整理できます。
- 中等度認知症(本人の意思確認が難しくなる段階)
この段階では、事前に整理した情報や同意書に基づき、業者が必要な手続きを代行することが可能です。本人から直接情報を聞き出すことが困難でも、事前に作成しておいた一覧やアクセス情報を活用して、安全に資産管理を進められます。
- 重度認知症(本人の意思確認がほぼ不可能な段階)
重度の場合、法律上の代理人(成年後見人など)を通じて手続きを行うことになります。デジタル遺品業者は、代理人と連携して、アカウントの凍結やデータ保全、必要な資産の引き継ぎなどを安全に実行します。事前に整理しておいた情報があれば、認知症発症後でも、トラブルを最小限に抑えられます。
デジタル遺品ごとの整理方法
現代の相続では、従来の現金や不動産だけでなく、ネット上の資産やアカウントも管理が必要です。まず、ネット銀行や証券口座については、ログイン情報や二段階認証の手順を整理して、一覧化して家族に提供しておくことが重要です。こうしておくことで、認知症発症後でも、代理人が迅速に必要な手続きを行うことができます。
暗号資産(仮想通貨)については、ウォレットの秘密鍵やアクセス方法を安全に保管しておきましょう。クラウドデータでは、写真や重要書類などを整理して、必要なデータだけを家族がアクセスできる形で保存しておくと、混乱や情報漏れを防げます。
また、SNSやメールアカウントについても、アカウント停止や引き継ぎ手順を事前に整理しておくことで、トラブルや不正利用を未然に防ぐことができます。このように、デジタル遺品やアカウントも含めた整理を進めることは、認知症発症後でも、家族が円滑に相続手続きを行うための重要な準備になります。
デジタル遺品業者に依頼する手順と注意点
まず認知症のケースで、デジタル遺品業者に依頼する場合は、本人の同意を得ることが前提です。軽度認知症であれば、どのアカウントや資産を整理するのか、どの範囲まで情報を共有するのかを本人と話し合い、同意書を作成しなければなりません。
次に、デジタル遺品業者に整理したい資産やアカウントの種類、緊急時の引き継ぎ方法を伝えます。業者は情報を安全に保管して、一覧表や手続きマニュアルとして家族に提供します。依頼時の注意点として、業者の信頼性を確認することが重要です。過去の実績や個人情報保護体制をチェックして、料金や作業範囲が明確であることを確認しましょう。
また、整理した情報は定期的に更新して、認知症の進行や、新たなデジタル遺品の追加に対応できる体制を整えておくことが望ましいです。このように、デジタル遺品業者を活用することで、認知症による情報管理のリスクを減らして、家族が安心して相続準備を進めることができます。
まとめ

認知症と相続の問題は、誰にとっても避けて通れないテーマです。判断能力が失われた後に備えるには、早い段階で財産の整理と、家族間の合意形成を進めておくことが不可欠です。遺言の整備や贈与、生前整理を通じて、本人の意思を明確にして、必要に応じて弁護士・司法書士・税理士などの専門家に相談することで、法的な不備やトラブルを未然に防ぐことができます。
また、スマートフォンやネット口座などのデジタル遺品は、従来の相続手続きでは見落とされやすい分野です。専門のデジタル遺品業者に依頼すれば、データの特定・削除・資産確認を適切に行い、家族の負担を軽減できます。相続準備の目的は、単に財産を分けることではなく、家族が安心して、将来を迎えられる環境を整えることにあります。早めの準備と正しい相続の知識で、認知症発症後の混乱や争いを事前に防ぎましょう。
この記事の監修者

石坂貴史
マネーシップス運営代表・FP
証券会社IFA、2級FP技能士、AFP、マネーシップス運営代表者。デジタル遺品や相続をはじめとした1,100件以上のご相談、記事制作、校正・監修を手掛けています。金融や経済、相続、保険、不動産分野が専門。お金の運用やライフプランの相談において、ポートフォリオ理論と行動経済学を基盤にサポートいたします。

