「お母さんが亡くなって、何から手をつければいいのか…」
ある方は、数年前に93歳のお母様を見送りました。10年以上にわたる認知症の介護を経て、要介護4。しかしその後に待ち受けていたのは、想像を超えた『相続の迷宮』だったといいます。
戸籍謄本一枚取るのにも時間がかかる。銀行口座の名義変更はどこに問い合わせればいいのか。何も分からないまま右往左往した日々を振り返り、『いつかは来ることなのだから、もっと早くに調べておけば』と痛感したそうです。
幸い、お母様は認知症を発症してすぐに携帯電話を解約していたため、デジタル関連の手続きで大きく困ることはありませんでした。しかし相続手続きを進める中で、同じような状況の方々の話を聞くにつれ、「もし携帯をそのままにしていたら…」と背筋が凍る思いをしました。
スマートフォンのパスワードが分からない。ネット銀行の存在は知っているが手が出せない。サブスクの引き落としが止まらない——そうした「デジタル遺品」の問題に直面し、途方に暮れるご家族が、スマホが普及した今、急増しています。
本記事では、認知症の親を持つご家族や、現在まさに相続手続き中の方に向けて、相続の基本的な流れと、見落としがちなデジタル遺品問題を、実体験を交えてお伝えします。
この記事でわかること

- 認知症の親が亡くなった後の相続手続きの基本的な流れ
- 相続でつまずきやすいポイントと対処法
- デジタル遺品とは何か?見落とすと起きるトラブル
- デジタル遺品整理を専門家に任せるメリット
認知症の親が亡くなった後、相続手続きはどう進む?
相続手続きには法的な期限があるものとそうでないものが混在しており、何も知らないまま放置すると思わぬ不利益を被ることがあります。大まかな流れは以下の通りです。

① 死亡届の提出(7日以内)
故人が亡くなってから7日以内に、死亡診断書とともに市区町村の窓口へ死亡届を提出します。これが各種手続きのスタートラインです。
② 戸籍謄本の収集(目安:2週間〜1ヶ月)
相続手続きには、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。転籍や改正などがある場合、複数の市区町村に請求しなければならず、取り寄せに時間がかかることがあります。
今回お話を聞いた方の場合、お母様の戸籍が北海道・新潟・千葉と移っていたこともあり、戸籍謄本を揃えるのに思いのほか時間がかかったといいます。『なぜこんなに手間がかかるのか』と途方に暮れた経験から、郵送請求も活用しつつ、返送までのタイムラグを見越して早めに動くことをすすめていました。
③ 相続人の確定と遺産調査
戸籍謄本をもとに法定相続人を確定させ、故人の財産(預貯金・不動産・有価証券など)を調査します。認知症の場合、生前に財産の全容を把握できていないケースも多く、調査に時間がかかることがあります。
④ 遺産分割協議
今回の事例では、一人息子による単独相続だったため協議は不要でしたが、通常は相続人全員で遺産の分け方を話し合います。
⑤ 各種名義変更・解約手続き
銀行口座の解約・名義変更、不動産の相続登記(2024年4月より義務化)、保険金の請求など、個別の手続きを進めます。それぞれ窓口や必要書類が異なるため、リストアップして管理することが重要です。
認知症の親の相続でつまずきやすい3つのポイント

1. 財産の全容がわからない
認知症が進行すると、本人が「どこにいくら貯金があるか」「どんな契約をしているか」を把握・伝達できなくなります。通帳が見当たらない、契約書類がない、というケースは珍しくありません。
金融機関は相続人からの照会に応じてくれますが、そもそも「どの銀行に口座があるか」すら分からなければ調べようがありません。
2. 戸籍謄本の収集が想定外に大変
特に高齢の親の場合、出生地と死亡地が異なるケースや、戦時中の戸籍が含まれるケースもあり、複数の自治体への請求が必要にな場合もあります。それぞれ手数料もかかり、まとめると相当な時間と費用になることがあります。
3. 相続放棄の期限を見逃す
相続放棄は「相続の開始を知った日から3ヶ月以内」という期限があります。借金などの負債がある場合は特に注意が必要です。手続きに追われているうちに期限を過ぎてしまった、というケースも報告されています。
見落としがちな「デジタル遺品」問題

相続手続きに追われる中で、今の時代ならではの問題として、多くの人が頭を悩ませるのが「デジタル遺品」です。
デジタル遺品とは何か?
デジタル遺品とは、故人がデジタル機器やインターネット上に残したデータや資産のことです。具体的には以下のようなものが含まれます。
- スマートフォン・パソコン内のデータ(写真・動画・連絡先など)
- SNSアカウント(Facebook・Instagram・X など)
- ネット銀行・証券口座・電子マネー
- サブスクリプション契約(動画配信・音楽配信など)
- 暗号資産(ビットコインなど)
- クラウドストレージ(iCloud・Google Drive など)
「うちは大丈夫」が一番危ない

今回お話を聞いた方のお母様は、認知症を発症してすぐに携帯電話を解約していました。そのおかげでデジタル関連の手続きで大きく困ることはなかったといいます。
しかし相続手続きを進める中で痛感したのは、『そうでないケースがいかに多いか』ということだったそうです。
実際にこんなケースも聞かれます。
母が亡くなった後、スマートフォンを開こうとしたがパスワードが分からない。
ネット銀行の存在は通帳の郵便物で分かったが、ログイン情報がどこにも残っていない。
さらに、毎月クレジットカードから数千円の引き落としがあるのに、何のサービスか全く分からない——。
「デジタルのことは後で」と思っているうちに、問題が雪だるま式に膨らんでしまったのです。
デジタル遺品を放置することで起きうる問題は、大きく3つあります。

【問題1】サブスクの請求が止まらない
動画配信や音楽配信などのサブスクリプションサービスは、契約者が亡くなっても自動では解約されません。クレジットカードが有効な限り、引き落としが続きます。気づかないうちに数ヶ月分の費用が発生していた、というケースも少なくありません。
【問題2】デジタル資産が相続できない
ネット銀行や証券口座、暗号資産は、パスワードが分からなければアクセスできません。存在は分かっていても、手続きが進まず相続できないまま放置されるケースがあります。
【問題3】個人情報の漏洩リスク
放置されたSNSアカウントは、不正アクセスやなりすましに悪用されるリスクがあります。また、クラウドストレージに保存された個人情報が流出する可能性もゼロではありません。
認知症×デジタル遺品のダブルリスク

認知症の親を持つ場合、デジタル遺品問題はさらに深刻です。
認知症が進行すると、本人がパスワードを忘れたり、どんなサービスに契約しているかを把握できなくなります。家族が把握できていない契約が、知らないうちに積み重なっているケースも多いのです。
特に問題になりやすいのが以下のパターンです。
- スマートフォンがパスワードロックされていて開けられない
- ネット銀行の存在は分かっているが、ログイン情報が不明
- 何かのサービスから毎月引き落としがあるが、解約方法が分からない
- 暗号資産を持っていたかもしれないが、確認できない
今回ご紹介した事例のように『認知症発症直後に携帯を解約していた』というケースは、実は非常に稀です。ほとんどの場合、家族が気づいたときにはすでに認知症が進行しており、本人からの情報を得ることが難しくなっています。
だからこそ、いざというときのために専門家の力を借りることが重要です。
デジタル遺品整理は専門家に任せるのが安心
デジタル遺品の整理は、専門的な知識と技術が必要な作業です。パスワードロックの解除、削除されたデータの復元、各サービスへの解約手続きなど、個人では対応が難しいケースも多くあります。
専門業者に依頼できること
- スマートフォン・パソコンのパスワード解除・データ調査
- ネット銀行・証券口座・暗号資産の発見と相続サポート
- サブスクリプションの解約手続き代行
- SNSアカウントの削除
- クラウドデータの整理と引き継ぎ
まとめ:相続手続きとデジタル遺品、同時に動くことが大切

親が亡くなった後の相続手続きは、想像以上に複雑で時間がかかるものです。特に認知症の場合は、財産の全容把握から始まり、戸籍謄本の収集、各種名義変更と、やることが山積みになります。
そこに加えて、デジタル遺品の問題が絡んでくると、さらに複雑さが増します。
今回の事例のように、認知症発症直後に携帯を解約するなどの備えができていれば理想的です。しかし現実には、そこまで準備が整っていないご家族の方が圧倒的に多いのが実情です。
だからこそ、早めに専門家の力を借りることをおすすめします。特にデジタル遺品については、放置するほどリスクが高まります。「いつかやろう」ではなく、相続手続きと並行して早めに動くことが、結果的に時間とお金と心の負担を減らすことにつながります。




