「生命保険には入っている。でも、ネット銀行やスマホの中のお金のことは、家族に伝えていない」
そんな方は、決して少なくありません。
私は介護福祉士として15年以上、高齢者やそのご家族と接してきました。保険やお金の話も会話の中で、よく出ていました。
その中で感じるのは、「生命保険」と「デジタル資産」が、終活でバラバラに考えられている、ということです。
ですが、この2つは本来、同じ目的を持っています。
それは、「自分の大切なお金を、家族に確実に残す」ということです。
この記事では、生命保険の受取人とデジタル資産を、終活で一緒に整理するメリットを、現場の視点からお伝えします。
データで見る|「お金を確実に残す」のは意外と難しい

まずは、現在の状況を数字で見てみましょう。
生命保険文化センターの調査によると、2人以上の世帯では生命保険に加入している割合は約9割(89.2%)にのぼります。多くのご家庭が、「保険でお金を残す」備えはしているわけです。
ところが、「渡し方」の段階でつまずくケースは少なくありません。
裁判所の司法統計(令和5年)によると、相続でもめて調停や審判になったケースの多くで、遺産総額が5,000万円以下でした。相続をめぐるトラブルは、決して資産家だけの問題ではないのです。
さらに近年は、「目に見えないお金」が増えています。
総務省『令和6年版 情報通信白書』によると、2023年末時点でインターネットの利用率は60代(60〜69歳)で90.2%にのぼります。ネット銀行やネット証券を使う高齢者も、もう珍しくありません。
紙の通帳が届かないネット上のお金は、本人が伝えておかなければ、家族に気づかれないまま埋もれてしまいます。
生命保険とデジタル資産は、「渡り方」がまったく違う

同じ「家族に残すお金」でも、生命保険とデジタル資産では、家族への届き方がまるで違います。
生命保険は、受取人を指定すれば確実に届く
生命保険の大きな特長は、「受取人」を指定できることです。
受取人に指定された人は、保険金を確実に、しかも自分の財産として受け取れます。遺産分割の話し合いを待たずに、まとまったお金をすぐに手にできます。
「誰に渡すか」を、自分の意思ではっきり決められる。これが生命保険の強みです。
さらに、生命保険の死亡保険金は、受取人だけの財産として扱われます。ほかの相続人と分け方を話し合う必要がなく、原則として遺産分割の対象にもなりません。
万が一、相続放棄をした場合でも、受取人に指定されていれば保険金は受け取れます。葬儀費用や当面の生活費など、すぐにまとまったお金が必要な場面でも、心強い備えになります。
デジタル資産は、見つけてもらえないと届かない
一方、ネット銀行やネット証券、暗号資産などのデジタル資産には、受取人の指定がありません。
家族がその存在に気づき、IDやパスワードにたどり着いて、はじめて手続きができます。
スマホにロックがかかっていれば、中を確認することすらできません。
「どこの銀行に、いくらあるのか」が本人の頭の中だけにあると、せっかくの資産も、家族には届かないのです。
しかも、デジタル資産はネット銀行やネット証券だけではありません。電子マネーやポイント、マイル、暗号資産など、目に見えないお金は、想像以上に幅広く存在します。
一つひとつは少額でも、合わせれば決して小さくない金額になることもあります。「自分には関係ない」と思っていても、知らないうちにデジタル資産を持っているケースは、少なくありません。
なぜ「一緒に」考えるべきなのか

生命保険とデジタル資産は、別々に語られがちです。
ですが、終活では「一緒に」整理することをおすすめします。理由は3つあります。
①目的が同じだから
どちらも、「自分のお金を、家族に確実に残す」ための備えです。
目的が同じなら、一度にまとめて考えたほうが、抜け漏れがありません。
②バラバラだと、片方が宙に浮くから
保険の受取人だけ整えても、ネット銀行の存在を伝え忘れれば、その資産は届きません。
逆に、デジタル資産を一覧にしても、受取人が古いままなら、保険金が意図しない人に渡ってしまうこともあります。
「お金を残す」という視点で両方を見ると、こうした抜けに気づけます。
③一度の見直しで、まとめて整理できるから
受取人の確認、デジタル資産の棚卸し、家族への共有。
これらを別々に進めると手間ですが、終活の機会に一度でまとめれば、効率よく、確実に進められます。
落とし穴|見落とされやすい2つのポイント

整理を進めるうえで、特に見落とされやすいのが次の2つです。
生命保険の受取人が「昔のまま」になっている
受取人は、一度決めたら自動では変わりません。
離婚や再婚、受取人ご自身が亡くなった場合などがあっても、手続きをしなければ古い指定のままです。
「気づいたら、保険金が元配偶者に渡る指定だった」というケースも、実際にあります。一度、いまの受取人を確認しておきましょう。
デジタル資産の「ありか」を本人しか知らない
ネット銀行やネット証券は、紙の明細が届きません。
本人にとっては当たり前でも、家族にとっては「あるかどうかも分からない」のが実情です。
パスワードまで書き出す必要はありませんが、「どこを使っているか」だけでも残しておくことが大切です。
今日からできる|保険とデジタルを一緒に整理する4ステップ
「難しそう」と感じるかもしれませんが、やることはシンプルです。
ステップ1:生命保険の受取人を確認する
まずは、加入している保険の受取人が、いまの意思に合っているかを確認します。変更したい場合は、保険会社に連絡すれば手続きできます。
ステップ2:デジタル資産を書き出す
次に、ネット銀行・ネット証券・暗号資産・電子マネーなど、デジタルのお金を書き出します。「何を、どこで使っているか」を見える形にすることが第一歩です。
ステップ3:エンディングノートにまとめて記す
保険の情報とデジタル資産の「ありか」を、エンディングノートに一緒にまとめます。「資産」というくくりで一覧にしておくと、家族が一目で把握できます。
ステップ4:年に一度、見直す
保険も資産も、状況は少しずつ変わります。誕生日など、年に一度のタイミングで見直すと、情報が古くなりません。
介護とお金の現場から伝えたいこと

現場で15年以上過ごし、お金の相談にも関わってきた私から、ひとつお伝えしたいことがあります。
私が見てきたご家族の中には、生命保険はきちんと残っていたのに、ネット証券の口座が見つからず、何カ月も探し続けたケースがありました。
「保険のことは聞いていたけれど、ネットのお金までは知らなかった」と、ご家族は肩を落としていました。
お金を残す気持ちがあっても、「伝え方」が抜けていると、その思いは届きません。
保険とデジタル、両方をひとまとめにして残しておくこと。それが、家族への確実な思いやりになります。
判断できる今だからこそ、落ち着いて整理を進められます。
まとめ
生命保険とデジタル資産は、「家族にお金を確実に残す」ための両輪です。
保険で受取人を指定しても、デジタル資産が埋もれていれば、片方しか届きません。
だからこそ、終活では保険とデジタル資産の2つを切り離さず、一緒に整理することが大切です。
放置したときのリスクと、生前にできる対策をまとめました。
【放置すると起こること】
- 保険金が、意図しない受取人に渡ってしまう
- ネット銀行・証券などのデジタル資産が、家族に気づかれない
- 「お金を残したい」気持ちが、家族に届かない
【生前にできる対策】
- 生命保険の受取人を、いまの意思に合わせて確認する
- デジタル資産を書き出し、「ありか」を残す
- 保険とデジタルを、エンディングノートに一緒にまとめる
「自分だけで整理するのは不安」「何から手をつければいいかわからない」という方は、デジタル終活を専門にサポートするサービスに相談するのもおすすめです。
専門家と一緒に進めれば、保険もデジタルも漏れなく整理でき、安心して備えを終えられます。
大切なお金を、大切な家族へ、確実に。
判断できる今こそ、小さな一歩を踏み出してみませんか。
この記事の監修者

yusuke/介護福祉士・FP3級
介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。FP3級。介護の現場で見てきた「本当に困ること」をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。
出典
- 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」(生命保険の世帯加入率)
https://www.jili.or.jp/research/report/9849.html - 裁判所「司法統計」(令和5年・遺産分割事件の遺産価額別件数)
https://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search - 総務省「令和6年版 情報通信白書」(年代別インターネット利用率)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd21b120.html

