「デジタル終活」という言葉、聞いたことはありますか?
終活というと、「まだ早い」「元気なうちは考えなくていい」と感じる方も多いと思います。しかし、デジタル終活だけは話が別です。
なぜなら、認知症の発症や突然の入院・死亡があってからでは、手遅れになることがあるからです。
スマートフォンにロックがかかったまま、ネット銀行の口座がどこにあるかわからない、毎月のサブスク料金が止められない——こうした問題が、遺された家族を長期間悩ませる現実があります。

この記事では、60代・70代の方が無理なく、スモールステップでデジタル終活を始めるための3つのステップを解説します。「難しそう」と感じている方こそ、ぜひ最後まで読んでみてください。
この記事でわかること
✅ デジタル終活をしないと家族がどんな困難に直面するか
✅ 60代・70代に特有のリスクと、今始めるべき理由
✅ スモールステップで始める3つの具体的な手順
✅ パスワードを安全に家族へ伝える方法
✅ デジタル遺産目録の作り方と活用法
デジタル終活をしないと、家族はどう困るのか
実際にあった相談事例
国民生活センターには、次のような相談が寄せられています。
- 亡くなった兄が利用していたネット銀行の口座を確認しようとスマートフォンを持って携帯ショップに行ったが、ロック解除はできない、初期化しかできないと言われた(60代)
- 夫が亡くなり携帯を解約した後、夫が契約していたサブスクが残っていることが判明。解約するにはIDとパスワードが必要と言われ、すぐには止められなかった(80代)
- 故人が利用していたコード決済の相続手続きが、1か月以上経っても終わらない

これらは決して特殊な事例ではありません。スマートフォンでインターネットを利用する人は、60代で78.3%、70代で49.4%にのぼります。デジタル遺品の問題は、誰にとっても他人事ではありません。
デジタル終活をしないと起きる3つの問題
問題①:ネット銀行・証券口座が見つからない 通帳のないネット銀行は、家族が口座の存在に気づかないまま手続きが終わってしまうことがあります。相続税の申告後に口座が発覚すれば、修正申告が必要になる可能性もあります。
問題②:サブスクが止められず課金が続く 動画配信・音楽配信・クラウドストレージなど、毎月課金されているサービスは、IDやパスワードがわからない場合、すぐに解約できず、事業者への問い合わせや追加書類の提出が必要になることがあります。解約手続きが完了するまで、請求が続く場合もあります。
問題③:スマートフォンが「開かずの箱」になる スマートフォンにロックがかかったままでは、中に保存されている写真・動画・メモ・アプリのログイン情報すべてにアクセスできなくなります。携帯会社では原則としてロック解除はできないため、初期化するしかなくなります。
60代・70代が今すぐ始めるべき理由
70代になると認知症リスクが急上昇する
日本では、70代後半になると認知症の有病率が急激に上がります。認知症を発症すると、複雑なデジタル操作が難しくなるだけでなく、判断能力が低下して本人の意思確認が難しくなると、預金の引き出しや各種手続きがスムーズに進まなくなる場合があります。
「元気なうちに整理しておこう」と思っているうちに、動けなくなってしまうのが現実です。60代のうちに一通り整理しておくことが理想的と言われるのはそのためです。
スマートフォン利用が増えるほど、リスクも増える
スマートフォンの利用が増えるにつれて、管理すべきデジタル情報も増えていきます。ネット銀行・ネット証券・電子マネー・ポイント・サブスク・SNS——60代・70代の方も、気づかないうちに多くのデジタル資産を抱えています。
整理するなら、まだ自分でコントロールできる今が最適なタイミングです。

デジタル終活の3ステップ
では、実際に何から始めればよいのでしょうか。「一度にすべてをやろうとしない」ことがスモールステップのコツです。3つのステップに分けて、順番に進めましょう。

ステップ1:スマートフォンのロック解除情報を家族に伝える
なぜ最初にやるべきか
デジタル終活の中で最も優先順位が高いのが、スマートフォンのロック解除情報の共有です。
スマートフォンの中には、ほぼすべてのデジタル情報への「入口」が詰まっています。メールアカウント・銀行アプリ・各種サービスのアプリ——これらはスマートフォンにアクセスできれば確認できますが、ロックがかかっていれば何もできません。
具体的な伝え方
- 封印した紙で保管する:パスコードを書いた紙をマスキングし、「万が一のときに開けるスマートフォンのスペアキー」として、家族が見つけられる安全な場所に保管する
- エンディングノートに記録する:「ロック解除のヒント」として記載し、保管場所を家族に伝えておく

併せて設定しておきたいアカウント継承機能
スマートフォンのパスコード管理とは別に、Appleの「故人アカウント管理連絡先」やGoogleの「アカウント無効化管理ツール」も設定しておくと安心です。これらは画面ロックを解除する機能ではありませんが、本人の死後や長期間利用がない場合に、指定した人がアカウント内の一部データを受け取れるようにする仕組みです。
注意点
パスコードは定期的に変えることがありますが、エンディングノートに書き留めた後に変更した場合、必ず更新することを忘れないようにしましょう。
ステップ2:デジタル資産の一覧(デジタル遺産目録)を作る
なぜ必要か
「自分がどんなデジタル資産を持っているか」を一覧にまとめておくことが、デジタル終活の核心です。家族が手続きする際の「地図」になります。
「相続トラブルを防ぐ「デジタル遺産目録」の作り方」でも詳しく解説していますが、デジタル遺産を一覧化していないと、遺族が相続手続きの途中で予期せぬ口座や契約を発見するトラブルが起きやすくなります。
一覧に書くべき項目
| 種類 | 書くべき内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ネット銀行 | 銀行名・口座番号・ログインID | パスワードは別管理 |
| ネット証券 | 証券会社名・口座番号 | 同上 |
| 電子マネー・ポイント | サービス名・残高の確認方法 | 有効期限に注意 |
| サブスク | サービス名・月額・解約方法 | 不要なものは今すぐ解約 |
| SNS | サービス名・死後の対応方針 | 削除か追悼アカウント化か |
| クラウドストレージ | サービス名・保存データの概要 | 写真・動画など |
| 暗号資産 | 取引所名・保有の有無 | 秘密鍵は最重要 |
パスワードの書き方
パスワードそのものをエンディングノートに書くことはリスクがあります。安全な方法は以下のとおりです。
- ヒント形式で書く:「〇〇の誕生日と△△の数字の組み合わせ」など、家族にはわかるが他人にはわからない形
- 保管場所だけを書く:「パスワード一覧は寝室の金庫の中」のように、場所だけをノートに記載
ステップ3:不要なデジタル契約・データを整理する
なぜ今のうちにやるべきか
使っていないサービスの解約と、見られたくないデータの削除は、自分が元気で判断できる今しかできない作業です。認知症になった後や亡くなった後では、本人の意思で整理することができなくなります。
整理すべきもの①:使っていないサブスク
意外と見落としがちなのが、「申し込んだまま使っていないサブスクリプション」です。クレジットカードの明細を一度確認して、身に覚えのないサービスがないかチェックしましょう。
解約方法がわからないサービスは、サービス名で検索すれば多くの場合すぐに解約ページが見つかります。
整理すべきもの②:見られたくないデータ
スマートフォンやパソコンの中に、家族に見られたくない写真・動画・メモ・メッセージなどがある場合は、今のうちに削除しておきましょう。
「どうせ誰も見ないだろう」と思っていても、相続手続きの過程でスマートフォンのデータを確認することになる可能性は十分あります。
整理すべきもの③:不要なSNSアカウント
使っていないSNSのアカウントは、放置すると第三者に乗っ取られてなりすましに使われるリスクがあります。今後使う予定のないアカウントは、この機会に削除しておきましょう。
3つのステップを続けるためのコツ
コツ①:一度にすべてをやろうとしない
デジタル終活は、一日で完了させようとすると疲れて続きません。「今日はスマートフォンのパスコードを家族に伝える」「今週はサブスクの一覧を作る」というように、小さなタスクに分けて少しずつ進めましょう。
コツ②:年に一度、見直す習慣をつける
デジタル資産は増減します。新しいサービスに登録したり、不要なサブスクを解約したりするたびに一覧を更新する必要があります。誕生日や年末年始など、決まったタイミングで見直す習慣をつけると長続きします。
コツ③:家族と一緒に確認する
デジタル終活は「自分のため」だけでなく「家族のため」の行為です。子どもや配偶者と一緒に一覧を確認することで、情報を共有しながらコミュニケーションのきっかけにもなります。
まとめ:「元気な今」だからこそできる準備がある
デジタル終活の3ステップをまとめます。
- スマートフォンのロック解除情報を家族に伝える(最優先)
- デジタル資産の一覧(デジタル遺産目録)を作る
- 不要なデジタル契約・データを整理する
どれも、元気な今だからこそ自分の意思で進められる作業です。認知症や突然の入院・死亡があってからでは、遺された家族が対応するしかなくなります。
「もっと早く整理しておけばよかった」——これは、相続や介護の現場でよく聞かれる言葉です。その後悔を家族に残さないためにも、今日からの一歩を踏み出してみてください。

一人で抱え込まず、専門家のサポートを活用する
「何から始めればいいかわからない」「自分でやるのは不安」という方には、専門家のサポートを借りる方法もあります。
デジタル資産の生前整理サービスならデジ・タクセル では、ネット銀行・証券口座・パスワード情報などのデジタル資産を、ご本人の意思に基づいて整理・管理するサービスを提供しています。「残したい情報」と「見られたくない情報」を専門家と一緒に整理し、ご家族が相続手続きで困らない環境を整えることができます。
「まだ元気だから大丈夫」と思っている今こそ、デジタル終活を始める最適なタイミングです。まずはサービス内容をご確認ください。
この記事の執筆者

田原 日出夫
現代文・小論文講師/終活・相続ライター 30年以上にわたり国語教育に携わり、東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学など難関大学合格者を多数輩出。誌面ライター13年、Webライター約8年の経験を持ち、終活・相続・デジタル遺産・シニア向けIT活用などの分野で執筆を行う。複雑な制度や専門用語を、初めての方にもわかりやすく伝えることを信条としている。近親者の相続手続きを自ら経験し、実体験に基づいた情報発信を心掛けている。
参考資料
- 国民生活センター「今から考えておきたい『デジタル終活』」(2024年11月20日)
- 国民生活センター「始めましょう!デジタル終活」(見守り新鮮情報第505号、2025年2月)
- 株式会社GOODREI「相続トラブルを防ぐ『デジタル遺産目録』の作り方」
- Apple「故人アカウント管理連絡先について」
- Google「アカウント無効化管理ツール」

