
暗号資産、ネット銀行やネット証券の口座、動画配信などのサブスク、SNSのアカウント。
デジタル遺産は、通帳や権利証のように目に見える形で残るわけではありません。
目に見えないために家族に気づかれないまま放置されると、財産があること自体に気づけず、受け取れないまま終わってしまうおそれがあります。
逆に、解約されないサブスクの料金だけが、毎月引き落とされ続けることもあります。
本記事では、デジタル遺産を残すときに遺言書がどう役立つのかを整理します。
あわせて、2026年8月時点の法律のルールと、実際に気をつけたい点をわかりやすく解説します。
遺言書は用意しておいたほうがいい
価値のあるデジタル資産を保有している場合、遺言書を用意しておくと、相続人が財産の存在を把握しやすくなります。
理由は大きく2つ。
家族が「何があるか」に気づけない
デジタル資産は、パスワードやアプリの中にしまわれています。
家族が「そもそも何を持っていたのか」を見つけられなければ、相続の手続きは始まりません。
遺言書や、財産の一覧表である財産目録に、財産の種類と預け先を書いておくことが大切です。
手がかりを残しておくだけでも、家族が動き出しやすくなります。
分け方でもめて長引きやすい
暗号資産や株などは、家族どうしで「誰が何を受け取るか」を話し合って決めます。
決め方を書き残していないと、話し合いが長引きがちです。
とくに暗号資産のように値段が大きく動く財産は、「いくらと考えるか」で意見が割れやすくなります。
だからこそ、遺言書で受け取る人を決めておく効果は大きいといえます。
一方で、SNSのアカウントやサブスクのように、財産というより「サービス会社と契約している立場」に近いものは事情が異なります。
遺言書よりも、エンディングノートやサービス会社が用意している生前の設定で対応するほうが実際的です。
遺言書はスマホやパソコンで作れる?
ここで混同しやすいのが、次の2つです。
- デジタル資産を「誰に渡すか」を、遺言書で決めること。
- 遺言書そのものを、スマホやパソコンで作ること。
前者はできます。後者は、現行法の通常ルートではまだ自由にはできません。
手書きが基本のルール
自分で書く遺言書、つまり自筆証書遺言には、決まった作り方があります。
- 本文を自分の手で書く
- 日付を書く
- 名前を書く
- はんこを押す
自筆証書遺言には、本文・日付・氏名を自書し、押印するなど法律で定められた方式があります。
パソコンで打った文章や、スマホのメモアプリに残した文章、動画や音声で残したメッセージは、遺言書としては原則認められません。
また、日付を「令和8年8月吉日」のようにあいまいに書いた場合や、はんこを押し忘れた場合も、無効になるおそれがあります。
「財産の一覧表」だけはパソコンでOK
例外もあります。
遺言書に付ける財産目録だけは、パソコンで作ってもかまいません。
財産目録とは、持っている財産をまとめた一覧表のことです。
ただし、ページごとに自分の手で名前を書く必要があります。
手書きの署名がないと、一覧表そのものが無効になるおそれがあります。
はんこについて法律上の決まりはありませんが、実務では慎重に扱ったほうが安全です。
暗号資産の取引所名やウォレットのアドレス、ネット口座の金融機関名は、どうしても書く量が多くなりがちです。
パソコンで作れる財産目録を使えば、整理しやすくなります。
公証役場で作る遺言書は?
遺言書には、公証役場で公証人に作ってもらう方法もあります。
これが公正証書遺言です。
手続きをデジタル化する動きも進んでいます。
ただし、本人がスマホやパソコンで自由に作れるようになったわけではありません。
あくまで、公証人が関わる手続きの一部がデジタル化されつつある段階です。
最新の状況は、公的な情報で確認するのが安心です。
これから変わる予定はある?
「保管証書遺言」という新しい制度が創設される予定です。
パソコン等で遺言書を作成できる仕組みが盛り込まれていますが、2026年8月現在はまだ施行されていません。
ただし、施行までにはまだ時間がかかります。デジタル遺産を残したい場合も新制度の施行を待つ必要はありません。
現在利用できる方法で遺言書を準備しておくことが大切なので、2026年8月の時点では、暗号資産などがあっても、遺言書は次のいずれかの方法で作るのが基本です。
- 自分で書く遺言書(本文は手書き、財産目録はパソコン可)
- 公証役場で作る遺言書
遺言書には何を書けばいい?

基本的には、次の3つを押さえておくとよいでしょう。
- 財産の種類(暗号資産、ネット証券の口座など)
- 預けている先の名前(取引所名、金融機関名など)
- だいたいの中身
一方で、パスワードや秘密鍵・シードフレーズ(復元用の合言葉)を、遺言書に記載することは避けたほうが安全です。
遺言書は、家族や手続きの関係者の目に触れる可能性があり、盗まれる危険があります。
次のように役割を分けると整理しやすくなります。
遺言書に書くこと
財産の種類、預け先、だいたいの中身、そして「誰に受け取ってほしいか」。
遺言書とは別に保管すること
パスワードやシードフレーズ、ログイン情報。
エンディングノート、パスワード管理サービスの緊急アクセス機能、銀行の貸金庫などを使い、「いつ開けてよいか」の条件をはっきりさせたうえで保管します。
なお、家族が本人になりすましてログインし、中身を確認する行為は、多くのサービスで規約違反にあたります。
情報が漏れる危険もあるため、手間がかかっても各サービスが用意している正式な手続きを使うのが基本です。
財産の種類ごとに気をつけること
暗号資産
暗号資産は相続の対象となる財産に含まれ、家族どうしで分け方を決める対象になります。
国内の取引所で手続きするときは、だいたい次の書類が必要です。
- 亡くなった日の残高証明書と取引履歴(取引所に発行してもらう)
- 相続届(取引所が用意している用紙)
- 戸籍謄本、または法定相続情報一覧図(家族関係をまとめた公的な書類)
- 相続人全員の印鑑証明書
国内の暗号資産交換業者では、相続人からの申し出に応じて所定の手続きを行います。
必要書類や手続きは事業者によって異なるため、利用していた取引所に確認しましょう。
問題になるのは、家族が「持っていた」と気づけないケースです。
遺言書や財産目録に書いておく意味は、まさに家族が見つけられるようにする点にあります。
ネット銀行・ネット証券の口座
紙の通帳がない分、存在に気づかれにくい財産です。
金融機関の名前だけでも遺言書や財産目録に残しておけば、家族はどこに問い合わせればよいかがわかります。
SNSのアカウント
SNSのアカウントは、暗号資産や預金などの財産とは異なり、サービス会社との契約やアカウントの管理に関する問題が中心になります。
亡くなった後の扱いはサービスによって異なるため、遺言書だけで対応しようとせず、利用しているサービスの公式な手続きや生前に設定できる機能を確認しておくことが大切です。
例えば、Facebookには生前に「追悼アカウント管理人」を指定できる機能があります。
またAppleには「故人アカウント管理連絡先」、Googleには「アカウント無効化管理ツール」が用意されています。
サービス側の機能を生前に設定しておくことで、遺言書だけでは対応しにくいアカウントの管理についても、あらかじめ希望を残しておけます。
生前に設定しておくほうが、遺言書に書くよりも確実に働きます。
サブスク
放置すると、亡くなったあとも料金の引き落としが続きます。
クレジットカードや口座の明細を見て、使っているサービスを書き出し、一覧にしておくとトラブル防止につながります。
誰に相談すればいい?

デジタル資産の遺言書づくりでは、相談先によって得意なことが違います。
弁護士:もめごとを防ぐ
遺留分への配慮や、家族間のもめごとの予防、遺言書全体の組み立てが得意です。
暗号資産のように値動きが大きく、分け方で意見が割れやすい財産があるなら、早めに相談したほうがよいでしょう。
司法書士:書類の形を整える
財産目録の作り方や、法務局に遺言書を預ける制度の手続きなど、書類まわりに強みがあります。
パソコンで作った財産目録に必要な署名がそろっているかどうかを確認するのも、形の不備を防ぐうえで大切です。
税理士:税金の計算
暗号資産やNFTを相続税の計算でいくらと見るか、値上がり益にどう税金がかかるかを扱います。
金額の見方は財産の種類によって異なります。相続税の申告が必要になりそうな規模なら、早めに相談してください。
いずれかに相談する場合も、事前に次の3つをメモしておくと話が早く進みます。
- 持っているデジタル資産の種類
- だいたいの金額
- 預けている先の名前(取引所名、金融機関名など)
まとめ
価値のあるデジタル資産があるなら、遺言書は用意しておくべきです。
ただし2026年8月の時点では、遺言書そのものをデジタルで自由に作ることは、まだ一般的ではありません。
自分で書く遺言書(本文は手書き、財産目録はパソコン可)か、公証役場で作る遺言書か、いずれかの方法で作る必要があります。
新しい制度を待つ必要はありません。
- 今ある方法で、デジタル資産の存在と預け先を遺言書や財産目録に残す
- パスワードなどの大事な情報は、別の場所に安全にしまっておく
2つを組み合わせるのが、今できるいちばん現実的な備えです。
迷う点があれば、弁護士・司法書士・税理士への相談を検討してください。

この記事の監修者
PN:shinobu
現役看護師/Webライター歴1年。アニメ・ゲーム・子育てに関する記事を中心に執筆しています。
専門知識と実体験を活かし、読者の方にとって役立つ情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。

