デジタル化が進む現代において、「家族に内緒の財産」
をデジタル資産として保有している人は多いでしょう。
へそくりはタンス預金から、ビットコインなどデジタルなものへと形を変えつつあります。デジタルであることの匿名性や秘匿性の高さは、誰にも知られずに財産を保有できるメリットがあります。
しかし、適切な対策を講じなければ、相続時に残された家族へ大きな負担となるデメリットも抱えています。
そこで、本記事では、家族に内緒のデジタル資産を抱えている方向けに、デジタル遺産を相続する際の注意点を解説します。
家族が知らないデジタル遺産がトラブルになる3つの理由
家族に内緒で資産を形成している人は多いでしょう。仮想通貨やネットバンキングの利用、ブログやアフェリエイトなどの収入も相続開始後は「デジタル遺産」となり、相続手続きの対象となります。
デジタル遺産は被相続人のスマートフォンやパソコンなどのデバイスで管理されており、家族に資産の存在を伝えないまま亡くなってしまうと、秘匿されたままになってしまいます。そこで、この章ではトラブルになる3つの理由を解説します。
見つからないまま放置されやすい
通帳がある預貯金や、登記簿で把握できる不動産など、物理的な財産であれば相続人は遺産をスムーズに発見できます。
しかし、デジタル遺産は通帳もなく、デバイスの中で静かに眠っているためIDやパスワードが不明な場合、その存在すら誰にも見つからないまま放置されるおそれがあります。
家族に存在を秘密にしていたデジタル遺産は、被相続人(故人)のみがアクセスできる状態になっていることが多く、いつの間にか管理サービスが終了していたり、ポイント失効で財産を失ったりするおそれもあります。
以下の資産を家族に内緒でお持ちの方は、相続開始後に相続人が見つけにくいため注意しましょう。
- 金融商品
インターネットバンキングの口座情報、オンライン上でのみ取引している証券口座、FX口座、投資信託口座など
- 仮想通貨
取引所の口座、ウォレット情報
- その他
Pay払いや電子マネー、ポイント、オンラインゲーム上の通貨など
遺産分割の対象から漏れてしまう
デジタル遺産が見つからないと、遺産分割協議を進める際に話し合うべき遺産分割の対象から漏れてしまうおそれがあります。
遺産分割協議からデジタル遺産が漏れてしまったら、新たに見つかった際に、再度相続人間で誰がデジタル遺産を取得するか決める必要が生じます(※)
(※)遺産分割協議時に新たな資産が見つかった時のあらかじめ対処法を決めておくことで、再協議を回避する方法もあります。
相続税申告にリスクが生じる
もしもデジタル遺産が相続税申告の際に漏れてしまうと、税務調査の対象となり、追徴課税や加算税が発生する可能性があります。
意図的な隠蔽とみなされた場合は、重いペナルティが科せられる可能性も否定できません。特に高額のデジタル資産を家族に内緒で形成している場合は、相続人に税務上のリスクを残してしまうことを知っておくべきでしょう。
家族のためにも対策を!秘密のデジタル資産をスムーズに相続するコツ
残された家族が秘密のデジタル遺産に翻弄され、リスクを背負ってしまわないためにも生前から「相続対策」を進めておくことがおすすめです。
そこで、本章では家族に内緒のデジタル資産をお持ちの方向けに、生前の相続対策を3つに分けて解説します。
1.遺言書や財産目録を作成しよう
秘密のデジタル資産を、確実に相続人に存在を知らせるためには「遺言書」を作ることがおすすめです。
遺言書にデジタル資産も含めた「財産目録」を添付することで、相続開始後に相続人は財産を適切に把握し、引き継ぐことができます。
に関する情報を具体的に記載することで、相続後の手続きをスムーズに進めることができます。
ただし、遺言書にはさまざまなルールが設けられており、適切に作成しなければ無効となるおそれがあります。
作成の際には弁護士や司法書士などの専門家に相談し、適切な記載方法や、紛失しにくい遺言書の保管方法についてアドバイスをもらうことがおすすめです。
遺言書を作らない場合でも、資産の種類・場所・保管方法などがわかる財産目録を作成し、エンディングノートに記載しておくことも検討できるでしょう。
2.定期的に資産管理の見直しをしよう
放置しているデジタル資産はありませんか。放置しているとセキュリティ上の問題が発生したり、ご自身でもロックの解除方法がわからなくなるなどのおそれがあります。
定期的にご自身のデジタル資産の状況を見直し、管理している情報を最新の状態に更新するように心がけましょう。エンディングノートや遺言書の内容も定期的に見直すことが重要です。
■オンラインサービスのセキュリティ強化も忘れずに
近年デジタル資産への不正アクセスが増加しています。口座の乗っ取りや不正取引を防ぐために、オンラインサービスで提供されている金融資産は二段階認証などのセキュリティ機能を積極的に活用しましょう。
3.生前贈与の活用もおすすめ
秘密にしておきたいとしても、相続税対策も踏まえてデジタル資産を生前に贈与することも検討しましょう。管理方法が複雑なデジタル資産を早めに贈与することで、相続時のわずらわしい手続きも減らすことが可能です。
生前贈与には以下のメリットがあります。
・ご自身の意思で、渡したい財産を贈与できる
・暦年贈与の非課税枠(110万円以下)、相続時精算課税制度(特別控除枠2,500万+年間における基礎控除枠110万円)などを活用すれば、贈与税を抑えて資産移転できる
・贈与で財産を早めに移転することで、相続税を安くすることができる
・贈与後の資産は、受贈者(贈与を受けた人)が自由に資産運用できる
デジタル資産で投機性のあるものを贈与した場合、贈与後に発生した収益には贈与税も相続税も加算されません。つまり、魅力的なデジタル資産をお持ちなら、早めに家族に贈与することで家族の収入を増やす効果があります。
ただし、デジタル資産の生前贈与にはいくつかの注意点があります。デジタル資産の種類によっては、贈与の手続きが煩雑であったり、法的な整備が追いついていなかったりする場合があるのです。特に高額の贈与を予定される場合は税理士のサポートを受けることが望ましいでしょう。
仮想通貨の評価における注意点
デジタル資産を相続・贈与で承継させる際には、財産の「評価」を適切に行う必要があります。
各国が価値を保証する法定通貨(円、ドルなど)と異なり、仮想通貨は需給によって価値が変わるため、株式市場のように価格が常に変動しています。取引市場によって価値や評価もまるで異なるため、慎重な判断が必要です。
あまり知られていないような暗号資産は特に評価が難しいため、相続時に相続人だけでは判断しかねる可能性があります。
投機性の強い仮想通貨は、家族に内緒にしておくデメリットも大きい資産です。税務上のリスクも把握した上で運用をしましょう。
参考URL 国税庁 暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和6年12月)
デジタル遺産は生前から対策を進めよう
家族に内緒のデジタル資産は、適切に対策を講じなければ、相続時にその存在すら知られず、大切な財産が活用されないまま終わってしまう可能性があります。
また、発見されたとしても、アクセス権限の問題や煩雑な手続きによって、残された家族に大きな負担を強いることになりかねません。
生前からスムーズな相続手続きができるようにしっかりと対策を行い、ご自身の大切なデジタル資産が適切に未来へと引き継がれるように事前に準備をしておくことが重要です。もし不安な点があれば、早めに専門家へ相談することがおすすめです。