相続登記義務化で何が変わる?

相続登記義務化で何が変わる?を選択 相続登記義務化で何が変わる?

本日は、2024年4月から義務化された相続登記についてお伝えいたします。
これまでは期限を定められていなかった相続に関する登記について、相続が発生した際や遺産分割協議が成立した場合に、家や土地などの不動産の所在が確定するに伴って、登記申請を必ず行うことを義務づけるものです。相続人にとってはこれまでにない大きな変化となります。この法律が生まれた背景、具体的な内容、そして私たちにとっての意味について深掘りしていきます。

目次

目次

  1. 相続登記義務化の背景
  2. 具体的な内容
  3. 相続登記義務化のメリット
  4. まとめ

1.相続登記義務化の背景

これまでは、不動産の相続が発生してもその移転登記を放置するケースが少なくありませんでした。同じ家族で受け継ぐため、困る人がいないからというのが主な理由だったと思います。しかし、その結果として「名義人が故人のままの不動産」が全国に数多く存在することとなってしまいました。そして、その数は年々増加しています。

2013年の空き家率は全国で約12%でしたが、その後2023年には21%となり、2033年には30%に到達するという予測がたてられています。実数にして、およそ2,146万戸にも及ぶ空き家が生まれるというもので、これは実に全戸数の三分の一にあたるそうです。現在でもすでに約900万戸(2023年統計)もの空き家があり、社会問題となっていますが、ここから10年の間により深刻化することが予想されます。

空き家を放置することで生まれる社会問題としては、次のようなものが考えられています。まずは財産処分に困るという点です。例えば、不動産の正確な所有者が分からないために、不動産取引が困難になることや、所有者が分からないため処分しようとしても権利関係が整わず、処分までに膨大な時間がかかってしまうというケースが考えられます。次に、空き家が地域に混在することで、浮浪者などが住み着き、騒音を起こしたり火の不始末などから小火騒ぎが起こったり、さらには詐欺や恐喝など犯罪の温床になってしまうケースが考えられます。

こういった状況を改善するため、国は相続登記の義務化を決定しました。所有権の透明化を促進し、不動産取引の安全性や地域における住居の社会的価値の見直しを図っています。

2.具体的な内容

相続が発生した場合、相続人は不動産を相続したことを知ったときから3年以内に不動産の名義変更登記を完了させなければなりません。登記を怠った場合には、違反者に対して罰金(過料として最大10万円)が科される場合があります。相続が発生した不動産は、迅速に適切な名義人に更新されることが期待されています。

相続による登記は、売買などと異なり単独申請が可能です。所有権者が定まったら、それを証明する書類とともに早めに申請の準備をおこないましょう。現在は、オンラインによる登記申請も可能となっており、平日に登記所に行くことができなくても申請できるようになりました。

条文中の、「不動産を相続したことを知ったとき」については文言通りの理解をすればよく、相続が始まっても、不動産が自身に相続されることを知らなかった場合には当てはまりません。たとえば、遺言書がある場合や、相続人全員での遺産分割協議が行われた場合には、それぞれを確認した日付が、自身に不動産の所有権があることを知った日の起算点となります。

過去に起こった相続についても、同様に登記義務化の対象となります。過去に取得した不動産がある場合は、正しい所有者の名義に登記がなされているか確認してみるとよいでしょう。祖父の代から受けつがれた自宅の名義が実は祖父のままだった、ということもあるかもしれません。もし名義変更されていなかった場合は、令和9年3月までに登記を行う必要があります。義務化がスタートした令和6年の4月から、約3年間の猶予措置がとられています。

相続登記はご自身で行うことも可能ですが、これまでの権利関係が放置されていたり、実際の所有者が遠方に住んでいたりして複雑を極める場合があります。現状を知る上でも専門家に相談してみることをおすすめします。実際に登記代行を行えるのは司法書士のみとなりますが、戸籍の収集や権利関係に関する事前相談はその他士業でも取り扱うことが可能です。

3.相続登記義務化のメリット

義務化となることで国や私たちに対する3つのメリットが挙げられています。

不動産取引の透明性向上:名義人が明確になることで、不動産取引がスムーズに行えるようになります。財産価値を落とさずに取引が円滑に行われることで経済活動として守られることになるでしょう。

紛争の予防:名義変更が適切に行われることで、相続に関わるトラブルが減少します。所有者はだれであったのか、口約束と実際の登記名義が異なってしまっていてはその後のトラブルにつながりかねません。適切な方への移行を行っておきましょう。

税金の適正化:名義人が確定することで、相続税の正確な申告が行われ国の税収が安定します。

このように、どちらかといえば現在は国に対するメリットの方が大きいため、相続人からは登記費用の増加や手続き負担が大きくなることが課題視されています。実際の運用がどのようになっていくのか、注視する必要がありそうです。

なお、2024年7月現在は、申請された不動産登記件数が約94万件となっており前年同時期と比べると約10万件増加しています。これまでにない数で推移してきてはいますが、先述の空き家の数を考えると、制度としてまだ浸透しているとは言えないかもしれません。早期対応が必要な場合もありますので、お心当たりのある方は近くの専門家に相談してみることをお勧めいたします。

4.まとめ

相続登記の義務化は、財産面や地域の安全面などへ多くのメリットをもたらしますが、一方で新たな課題も提示されています。罰則規定が存在していることも、今はまだ強く認識されていませんが、令和9年ごろには問題視されてくる可能性もあります。

トラブルを避けるために、相続が発生した際は、まず財産の中に不動産があるか否か、そして登記名義はどうなっているのかを確認してみましょう。多くの場合、自宅や土地の所有権を相続と同時に引き継ぐことになると思います。不動産は相続財産として、共同相続人全員で均等に分けることが難しいもので取り扱いに困ったり、両親の土地を引き継ぐとなると遠方で管理コストがかかり自然と足が遠のいてしまったりするケースも考えられます。問題が複雑化するまえに適切な対応を行っておきましょう。

権利関係がすっきりすることにより、ご自身の財産や家族の未来を守る一助となることは間違いありません。相続登記義務化は、その手続きの面倒さを乗り越え、最終的には不動産の管理をより良いものに改善するための重要なステップといえるかもしれません。

執筆者

黒澤正人

保有資格:
  • 行政書士
  • 教育情報化コーディネーター3級
  • 進路アドバイザー
  • HSK3級
経歴:
  • 立教大学法学部 卒業
  • 2005年から大手学習塾で教鞭をふるい、現場のマネジメント業務もこなす
  • 2023年度行政書士試験にて合格
現在の業務内容:
  • 会社設立時の手続き
  • 契約書類作成
  • 遺言書などの相続手続き
可能な業務:
  • 法律関係のライティング
  • 法律関係の記事監修
  • 経営相談
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