知って得する相続税対策

相続税

相続税対策と聞くと、もしかして脱税?!となんだか悪いことであるかのように思えてしまうかもしれませんが、生前贈与そのものは法で認められた財産移転の方法です。正しく認識し賢く活用することで、結果的に相続税や贈与税の支払いを抑えることができる可能性があると思いながら読んでいただければ幸いです。

目次

1.相続税の基本的な計算方法

まずはじめに相続税がどのようにして課されるのかを確認してみましょう。相続税の課税対象となるのは、故人の全財産です。ここには不動産、預貯金、株式、生命保険の受取金額、車両や美術品などの動産も含まれます。これらの財産はそれぞれ市場価値を基に評価され、その総額から負債や葬式費用を差し引いた金額が相続税の課税基準となります。

課税標準額を求めた後は、累進税率を乗じて課税額を求めます。税率は、課税標準額に応じて10%から55%まで変動します。具体的な税額を計算する場合は、初めに遺産総額から基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を差し引きます。その後、法定相続分で分けます。最後に相続人に対しての控除(配偶者控除や未成年者控除や障害者控除があります)を適用し、最終的な課税額を算出します。

つまり個人の財産が多ければ多いほど、相続税も伴って増えますから、生前から財産を計画的に親族へ分配しておくことが相続税対策になるということです。

財産をできるだけ生前に分配する方法はいくつかありますが、今回は贈与に注目した対策をお伝えしていこうと思います。

2.生前贈与について

生前贈与は、その名の通り生前に財産を家族や親族に移転する行為です。日本では、年間110万円までの贈与は贈与税の対象外とされているのはご存知でしょうか。

これを暦年贈与といい、110万円の非課税枠を上手く利用することで計画的な分配が可能です。110万円という金額は少ないと思われるかもしれません。しかし、毎年110万円が非課税となるため、20年間贈与を続けると合計で2,200万円の財産を非課税でご家族に移すことが可能です。また、たとえばご兄弟それぞれに贈与することができれば、合わせて4,400万円を分配することが可能となります。

ただし、110万円という金額は同一年度に受贈者ごとに判断するため、たとえばご両親がそれぞれ110万円ずつを長男に贈与すると、結果長男は220万円を受け取ったことになるため非課税枠を超えてしまい贈与税がかかることに注意しましょう。

3.相続時精算課税制度について

生前贈与の方法に、もう1つ相続時精算課税制度を利用したものがあります。相続時精算課税制度とは60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供や孫へ贈与する場合に選択することができる制度です。

こちらは、贈与財産の合計額が2,500万円を超えるまでは贈与税がかかりません。また、財産も現金だけにとどまらず不動産でもOKです。利用する場合は、税務署に届け出る必要があります。2,500万円を超える場合には、超えた額につき一律で20%の税率が課せられます。

かつては、相続時精算課税制度を利用する場合は暦年贈与を今後一切利用できなくなるため、選択しづらいという声が多かったのですが、2024年1月1日以降で制度が新しく変わりました。年間110万円までの非課税枠が新設され、相続時精算課税制度を選択した場合であっても、110万円までの贈与は非課税となり、暦年贈与同様に申告義務が無くなりました。(ただし、相続時精算課税制度を利用する場合はその申告は必要です。)

さらに、これまで行われていた相続財産の足し戻しについても、非課税枠内で贈与された分は足し戻さなくてもよいこととされました。これにより、年間110万円までは完全に非課税にできることとなりました。

これまでとは大きく異なる改正のため、多くの場合では相続時精算課税制度を利用した方が節税効果があることになりそうです。

4.贈与する際の留意点

①現金を引き渡すときははっきりと記録を残す

贈与は契約であるため、受け取った側にも贈与であることの認識が必要です。たとえば、振込であったとしてもこっそり知らない口座に振り込んでいては、贈与契約とは認められないケースもあります。実際に、田舎に住んでいたご両親がお子さまの将来のために振り込んでいた口座が名義が両親であったために、贈与と認められず、所得税を追加で課せられるというケースもあったようです。また、手渡ししただけでは証拠が残らないため、はっきりと書面に残しておくなど契約として認められる形をとるとよいでしょう。相続時精算課税制度を利用する場合は、特別に申告することが必要のため心配は不要ですが、暦年贈与を利用する場合には留意しましょう。

②毎年契約を交わす

毎年110万円の贈与が非課税になるために、例えば10年間続けて贈与するという契約を交わした場合、それが定期贈与と認められてしまい贈与額の合計1,000万円に税金がかかってしまう可能性があります。契約として1,000万円の贈与がおこなわれたと判断される可能性もありますので、面倒かもしれませんが、毎年贈与契約を交わす方が無難です。

5.税額上の注意点

では、ここで相続税と贈与税の早見表を以下にまとめましたので見比べてみましょう。

画像
左)贈与税 右)相続税の速算表(参照:国税庁HP)

ご覧いただくと、金額が同じ場合は贈与税の方が税率が高いことがわかります。
所持している財産や相続人の数によって、何が適切なのかは個人によって異なります。贈与することが必ずしも節税になるとは限りませんので、専門家に相談しながらすすめるとよいでしょう。

6.その他の贈与制度

ここまでに紹介した2つが代表的な贈与制度でありますが、他にも用途を限定した贈与制度があります。簡単ではありますが、いくつかご紹介いたします。

①教育資金贈与制度

令和8年3月31日までに、教育資金として30歳未満の子や孫に1,500万円まで贈与をおこなう場合、全額が非課税になります。一括で贈与する必要がある点と、30歳までに使いきれなかったものについては贈与税が課せられる点には注意が必要です。

②住宅資金贈与制度

令和8年12月31日までに、一定の条件を満たした住宅を購入する場合の購入資金を贈与する場合、最大1,000万円まで非課税とすることができます。暦年贈与および相続時精算課税制度と併用できるため、効果的に活用できます。

③結婚子育て資金贈与制度

令和7年3月31日までに、18歳から50歳までの家庭に対し結婚資金または子育て資金として贈与を行う場合最大で1,000万円まで非課税となります。一括で贈与する必要があることと、指定金融機関にて申告書の提出が必要となります。

7.まとめ

贈与による節税は、相続税対策の中でも特に効果的な方法の一つです。生前に計画的に贈与を行うことで、相続税の負担を軽減し、より多くの財産を次世代に引き継ぐことができます。しかし、この対策を実行するには、税法の知識が必要不可欠です。家族の資産と未来を守るために最適な相続計画を立てましょう。

執筆者

黒澤正人

保有資格:
  • 行政書士
  • 教育情報化コーディネーター3級
  • 進路アドバイザー
  • HSK3級
経歴:
  • 立教大学法学部 卒業
  • 2005年から大手学習塾で教鞭をふるい、現場のマネジメント業務もこなす
  • 2023年度行政書士試験にて合格
現在の業務内容:
  • 会社設立時の手続き
  • 契約書類作成
  • 遺言書などの相続手続き
可能な業務:
  • 法律関係のライティング
  • 法律関係の記事監修
  • 経営相談
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