本日は、ペットと相続に関してお伝えします。
近年では、愛するペットたちを家族の一員としてとらえる考え方が浸透しつつあります。しかし、飼い主がいなくなった後、彼らの運命はどうなるのでしょうか。
犬や猫の平均寿命は15歳前後と言われています。仮に勤め人を引退し、65歳からペットを飼い始めるとなると、飼い主もペットも共に高齢化していく現実に向き合っていく必要があります。
ペットも家族の一員として認められつつある現代だからこそ、ペットについてもご自身の「相続計画」に含めて考えてみましょう。このコラムでは、ペットにまつわる法律関係を整理し、ペットの世話を他人に依頼するのにどんな手段があるかをお伝えしていきます。
1.ペットと法律
ご存じの方も多いと思いますが、日本の法律ではペットは権利義務の主体とならず「有体物」として扱われます。生き物ではなく「モノ」としての取り扱いをされているということです。
一方で、ペットとともに飼い主に対する法的な保護は与えられており、代表的には民法で以下のように定められています。
民法718条
①動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
②占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
最近ではこのほかに、動物愛護法をはじめとするいくつかの法律がペットの権利を保護しています。令和元年には、動物の所有者は動物の命を終えるまでに適切に飼養するよう努めなければならないと改正されています。ただし、これは努力義務とされており違反しても罰則義務はありません。
また、令和4年からは、販売業者へ販売する犬猫へマイクロチップを装着させることが義務付けられました。これによって適切な飼養を促すとともに、飼育放棄を防ぐ狙いがあります。ただしすでに販売・飼育されている場合は努力義務となる点には注意が必要です。
いずれもペットの権利を守るために新しくできた法律です。このように飼育中のペットについては法整備が進んでおり、ペットの権利も保護されつつあります。しかし、これらの法律だけでは、飼い主が亡くなった後のペットのケアは保証されません。もし自分がペットを残して死亡してしまった場合には、飼育者として誰に頼むかを考えることが必要です。
2.ペットと相続
結論から先に申し上げると、ペットの飼育に関して遺言に記載することが効果的と言えるでしょう。その場合はペットのケアに必要な費用や、ペットを引き受けてくれる人を明記することが重要です。方法としては次の3つが考えられます。
①負担付き遺贈
遺贈に付帯して何らかの義務を負担させることを約す遺言のことで、例えばペットの世話をしてもらう代わりにペットの生活費や医療費を遺贈するとするものです。ただ、遺贈の場合、受け取る側が放棄することもできるので受け取っていただく方へ確認する必要があるでしょう。
②負担付き死因贈与
①と同じように見えますが、違いとしては受け取っていただく方との合意の元「贈与契約」を取り交わすことになります。つまり、勝手な理由で拒否することはできませんので、負担を履行してもらうこと、つまり世話をしてもらう可能性が高まると言えます。
③信託契約を取り交わす
「ペットトラスト」と呼ばれる信託を設定することもできます。これは、ペットの生涯にわたるケアを法的に保証するもので、ペットの将来をしっかりと守る手段となります。生前に飼主が保険会社や民間支援団体などを介して、信託契約を交わします。様々な種類でのペットの相談を行うことができ自身の望みに叶うものが見つけられるでしょう。飼主が亡くなった後は、信託契約に基づいて新しい飼主を探したり、老犬猫などの場合は施設に送られるなどして最後まで面倒を見てくれます。
それぞれの手法については、具体的にどのようにされたいかという意志を固めたうえで、困ったことがあれば専門家に相談ください。
3.遺言書の書き方
例えば、負担付き遺贈をする場合の遺言は次のように記載します。(前文や途中経緯は省きます、このままでは有効となりませんのでご注意下さい)
一.遺言者は弟である田中三郎に、預貯金の中から〇円を遺贈する代わりに、その負担として遺言者が飼育する犬種〇〇である猫一匹(名前:ミケ令和2年3月生)が死亡するまで世話をする義務を負わせる。
この際に、相手である三郎さんが負担に感じすぎて世話を放棄してしまうことがないように事前に話をしておきましょう。具体的に決めておくべき事項は、①世話をする範囲を明確にしておくこと②経費がどのくらいかかるものか③世話人が変更することがあるかもしれないこと、などです。
4.まとめ
平成17年には年間約24万頭であった年間の犬猫の殺処分は、当時よりも毎年著しい減少の傾向にあります。令和4年度の統計では、犬猫合計で11906頭(令和4年動物愛護管理行政事務提要調査より)にまで減少しており、返還・譲渡率も76%にまで上昇しています。ただ、それでもまだ1万頭以上の殺処分されている犬猫がいるという事実からは目を背けることができません。
飼い主のやむを得ない事情で自治体に引き取られた結果として殺処分となってしまうのであれば、早い段階から自身のペットの世話をどうするかを検討しておくことはとても大切なことだと言えるでしょう。
自治体に引き取られる数が減っていたとしても、一方でNPOや民間のボランティア団体に引き取られる犬や猫の頭数が増えているという事実もあります。特定の支援がない中で、資金不足や資源不足から劣悪な飼育環境となってしまう団体・施設が問題視されてしまうこともあります。ひいては地域問題を引き起こしてしまい、結局問題を解決するために殺処分されてしまう可能性が残ります。これでは問題の本質的改善にはつながりません。
現在ではペットを飼育している日本人の数は2,000万人以上と言われています。ペット先進国と言えるイギリスやスウェーデンなどと比べると法整備も遅れているかもしれませんが、まずは我々1人1人の意識を高めることから考えていきたいものです。ペットが私たち人間と同じように安心して生活できるよう最後まで考えてあげることが、飼い主として必要なことかもしれません。
相続計画にペットを含めることで、彼らが必要とする愛情とケアを確実に与え続けることができます。
飼い主としての責任を、真の意味で最後まで果たすことができるとともに、将来に対する不安も減らすことができます。