
多くの方々にとって、犬や猫などのペットは、単なる財産ではありません。かけがえのない存在になります。しかし、法律の世界では、ペットは依然として「動産」です。つまり、財産の1つとして扱われています。
この価値観と法制度のズレが、相続の場面で様々な課題を生むのです。近年注目されるのが「ペット信託」制度と、その相続税の扱いです。今回の記事では、ペットをめぐる信託と相続税のグレーゾーンに関して、掘り下げていきます。
ペットは「法的にはモノ」になってしまう

日本の法律では、ペットは民法上「モノ」として扱われています。つまり、家具や自動車と同様に、財産の一部とみなされるのです。所有権の対象で、売買や譲渡が可能になります。法律上、ペット自身は権利を持っていません。そのため、ペットに自分の遺産を直接相続させることはできないのです。
しかし、多くの人々は、ペットを家族の一員として大切にしています。この法律上の扱いと、感情との間に大きなギャップがあるのです。その一方で、動物愛護管理法によって、ペットは「モノ」以上の存在として、一定の保護を受けています。この法律は、動物への虐待や遺棄を禁止しています。動物を傷つけたり捨てたりした場合には、懲役や罰金が科されるのです。
このように、日本の法律は、ペットを動産として扱います。しかし、動物愛護の観点から、特別な配慮や保護活動も行っています。ペットは、命ある存在として、尊重されるべきとの考え方が、現行の法律にも少しずつ反映されているのです。
法律と価値観の間にあるギャップ

日本社会では、ペットを家族同然に扱います。一方で、相続の場面では、ペット自身が財産を受け取ることはできません。他の動産と同じく、遺産分割の対象になります。誰がペットを引き取るかは、相続人同士の協議によって決まります。飼い主の希望通りに、ペットの将来が守られるとは限りません。
このような法律と現実の価値観の違いから、ペットの生活や福祉に対する不安が、生じています。飼い主が亡くなった後の、飼育費や医療費の確保は大きな課題です。このギャップを埋めるためには、ペットの世話を条件に財産を譲る「負担付遺贈」や「ペット信託」が有効です。
これらの制度の活用によって、飼い主の意思に沿った形で、ペットの生活が守れるでしょう。法律と社会の間に存在する隔たりを、理解することが重要です。適切な対策を講じることが、ペットと飼い主の安心につながります。
項目 | 現状・課題 | 対策・制度 | 効果 |
法的位置付け | ペットは「物」として扱われる | ― | 法律と価値観にギャップ |
相続 | 相続人の協議で引き取り先が決まる | ― | 希望通りにならない可能性 |
飼育費等 | 飼い主死亡後の費用確保が課題 | ― | 生活が不安定になる |
負担付遺贈 | お世話を条件に財産を譲る | 遺言書で指定 | 意志を反映しやすい |
ペット信託 | 世話と費用管理を第三者に託す | 信託契約 | 生活を確実に守れる |
ペットの将来を託す「ペット信託」

癒しと安らぎを与えてくれるのがペットです。しかし、飼い主に何かあった場合に、ペットの世話や生活を誰がどのように引き継ぐのか、不安を抱える人も少なくありません。
この悩みを解消する手段として注目されているのが「ペット信託」です。あらかじめ信託契約を結ぶことで、ペットの飼育や医療費を、誰がどのように担うかを明確にします。信託契約により、ペットの生活費や世話の継続が間接的に確保され、事実上の保護が可能となります。
一般的なペット信託の仕組み
ペット信託は、飼い主の健康上の問題に備えて、ペットの生活を守る仕組みです。飼い主は、あらかじめ信頼できる人や団体と契約を結びます。ペットの飼育費や医療費など、必要な資金を託すのです。その資金は、信託契約に基づいて管理されます。実際にペットの世話をする人に、必要なタイミングで支払われます。
この制度を利用することで、遺族や相続の状況に左右されず、ペットが普段通りの環境で暮らせるのです。飼い主の希望する飼育方法や日常のケア内容が、契約に盛り込めるため、ペットが安心して過ごせるのが特徴です。
また、信託の管理状況を、第三者がチェックする体制も設けられます。資金の使い道やペットの世話が、適切に行われているか確認できるのです。ペット信託は、飼い主の想いを反映しながら、ペットの将来を法的にサポートする、現代的な取り組みになります。
生前信託と遺言信託の違い
生前信託と遺言信託は、どちらも財産を次の世代へ円滑に引き継ぐための仕組みです。開始時期や利用目的に違いがあります。生前信託は、本人が元気な時に契約を結び、契約した時点から効力が発生します。
これによって、本人が認知症などで判断力を失った場合でも、あらかじめ選んだ受託者が、財産の管理や運用が行えるのです。本人の意向に沿った対応が可能になります。本人が亡くなった後も、信託契約に基づいて、財産が受益者に引き継がれます。そのため、遺言の執行を待たずに、資産移転ができるのです。
一方で、遺言信託は、信託銀行などが遺言書の作成支援から遺言の執行までを一括管理するサービスの総称です。効力が発生するのは本人の死後です。主に信託銀行などが、遺言書の作成や保管、執行までを一括してサポートします。遺言の内容に従って、財産を分配するのです。
しかし、遺言信託は生前の財産管理や、認知症対策には利用できません。死後の相続手続きが中心になる点に、注意してください。生前信託は生きている間から、財産管理を委ねられます。遺言信託は、死後の財産承継に特化した制度になるのです。
項目 | 生前信託(家族信託) | 遺言信託 |
効力発生時期 | 契約締結時から発生 | 本人の死亡時に発生 |
主な利用目的 | 生前の財産管理、認知症対策、資産承継 | 死後の遺産分割、相続手続きの簡素化 |
財産管理の主体 | 受託者(家族など信頼できる人) | 遺言執行者(主に信託銀行など) |
認知症対策 | 有効(判断力喪失後も、管理が可能) | 無効(生前の管理には、利用不可) |
柔軟な設計 | 可能(契約内容を詳細に設定できる) | 遺言内容の範囲内でのみ、指定可能 |
二次相続指定 | 可能(複数世代の承継設計ができる) | 不可(一次相続のみ) |
費用目安 | 30万~100万円程度 ※契約内容や関与する専門家によって変動します | 数十万~数百万円(資産規模で変動) |
受託者と飼育者を分けて考える
ペット信託を検討する際には、「受託者」と「飼育者」の役割を分けて、考えなければなりません。受託者とは、ペットの飼育費用などを管理して、契約に基づいて、適切に運用・支出する人です。飼育者は、実際にペットの世話を行う人や施設になります。
それぞれの役割を分けることで、様々なメリットがあるのです。まず、受託者が飼育者のペットケアを、監督する立場になります。信託財産が正しく使われているか、不正や怠慢がないかをチェックする仕組みが生まれるのです。これによって、ペットの安全がより確実に守られます。また、受託者には財産管理や法的知識が求められます。飼育者には、動物のケアに関する専門知識が必要になるため、各々に適した人材を選べるのです。
さらに、受託者と飼育者を分けることで、万が一の場合でも、もう一方が役割を果たし続けられます。実際の運用では、受託者と飼育者を同じ人物にできます。しかし、役割を分けておくことで、信託の透明性や安全性が高まるのです。このように、ペット信託では、受託者と飼育者の役割を明確に分けることも有効です。信頼できる人や団体を慎重に選び、事前に役割分担を決めることが大切かもしれません。
遺言や信託契約書を明確にする
ペット信託は、遺言や信託契約書の内容を、明確にすることが重要です。信託契約書には、受託者の権限と義務、ペットの世話に関する具体的な指示などを、詳細に記載しましょう。例えば、ペットの食事や医療、日常的なケア、緊急時の対応などが挙げられます。ペットが亡くなった際の対応方法まで、具体的に盛り込むことで、信託の目的が確実に達成されます。
また、信託契約書の内容を相続人にも明示するために、遺言書にも、ペット信託に関する事項を記載するのがおすすめです。ペットのために財産を残す場合、相続財産が減少するため、相続人の理解と協力が大切になります。遺言書では、ペットの世話を依頼する人や、そのために提供する財産などを、明確にしてください。
また、信託監督人を選任することで、第三者が監督できる仕組みを設けられます。これによって、ペットの世話や財産管理が適切に行われているかを確認できます。信託の透明性と安全性が、一層高まるのです。ペット信託を検討する際は、具体的に作成して、その内容を明確にしましょう。ペットの安心と、飼い主の意思の実現につながります。
項目 | ペット信託の内容とポイント |
信託の目的 | ペットの飼育・ケアのための財産管理 |
受託者の権限・義務 | 財産管理、ペットの世話、契約内容の遵守 |
ペットのケア内容 | 食事内容、健康管理(動物病院)、運動・遊び、緊急時の対応 |
信託の終了条件 | ペットの死亡時を信託の終了条件とし、残余財産は特定の人または団体へ帰属させる旨を明記する必要がある |
遺言書との連携 | ペット信託の内容を遺言書に明記、相続人への説明・理解の確保 |
信託監督人の設置 | 受託者の業務監督、信託事務の報告請求、不正行為の差止請求など |
専門家への相談 | 行政書士・弁護士等の専門家に相談して、法的に有効な契約書を作成 |
定期的な見直し | ペットや関係者の状況変化に応じて契約内容を見直す |
家族や相続人との事前の話し合いがカギ
ペット信託や、ペットに関する遺言の準備を進める際には、家族や相続人と、意見交換を行うことが大切です。ペットは、法律上は財産として扱われます。しかし、実際には家族の一員として、大切にされています。飼い主の死後に誰が世話を引き継ぐのか、あらかじめ関係者間で、共通認識を持ちましょう。
例えば、ペットの世話を任せるつもりでも、実際には、その役割を担えない事情があるかもしれません。ペット信託の場合には、信託財産の使い道や、ペットの飼育方針について、十分に協議することが重要です。専門家のアドバイスを受けながら、家族や相続人と丁寧にコミュニケーションを取ってください。ペットの幸せと、家族の安心を両立できる関係性を整えることが求められます。
ペットの相続問題と将来の課題

ペットは、単なる癒しの存在ではありません。「家族」として、日常を共にしており、飼い主の心の拠りどころです。特に、高齢者の1人暮らしや子どもを持たない夫婦にとって、かけがえのない存在になります。
近年、注目されているのが「ペット信託」などの仕組みです。しかし、制度としては完全ではありません。税務上の扱いや信頼できる受託者の確保など、課題が山積みなのです。
今後、少子高齢化と単身世帯の増加が進むでしょう。ペットをめぐる相続問題は、より一層深刻になる可能性があります。ペットの法的な位置づけから、相続に関する現状、社会に求められる制度について、幅広く考える必要があるのです。
高齢社会が生んだ新たな備えとペット信託のニーズ
日本社会が急速に高齢化する中で、ペットを家族として迎える高齢者が増加しています。しかし「自分がいなくなった後、ペットはどうなるのか」という不安を抱く人も少なくありません。このような状況から、新しい備えとして「ペット信託」への関心が高まっているのです。
入院や介護施設への入所、経済的な事情などで、ペットの世話が出来なくなる場合があります。保護団体や行政に引き取られる動物も多いです。ペット信託は、このような問題を未然に防いで、飼い主が責任を持って、ペットの将来を託す仕組みとして注目されています。
ペット信託は、家族や親族間で「誰がペットを引き取るか」「費用はどうするか」などのトラブルが避けられます。安心して、ペットの世話を託すことが可能です。信託契約があることで、保護団体や行政に関しても、ペット譲渡を前向きに検討しやすくなります。高齢者がペットと暮らす選択肢を、広げる役割も果たしているのです。
ペット信託は、動物福祉の観点からも意義があります。ペットの終生飼育をサポートする仕組みとして、今後の高齢社会でさらに重要性が増すでしょう。
項目 | 内容 |
ペット信託とは | 飼い主が病気・死亡・入院等で世話できなくなった場合に備えて、信頼できる第三者に、ペットの飼育と費用を託す仕組み |
社会的背景 | 高齢化の進行、独居高齢者や高齢夫婦世帯の増加、ペットを家族とする高齢者の増加 |
主なメリット | ・ペットの将来を守れる ・家族間のトラブル防止 ・保護団体や行政の負担軽減 ・高齢者の譲渡選択肢が拡大 |
基本的な仕組み | 委託者(飼い主)が受託者(信頼できる個人や団体)に信託財産(飼育費等)を託して、受託者がペットの世話を担う |
主な関係者 | 委託者(飼い主)、受託者(世話をする人・団体)、受益者(ペットの世話を受ける人・施設)、信託監督人(任意) |
費用の目安 | 年間飼育費×平均余命分(例:犬猫で100万円以上になるケースもある) |
注意点 | 契約内容の明確化、信託終了時の財産帰属先の指定、法律専門家のサポートが推奨、認知度や実務体制の課題あり |
今後の意義 | 高齢社会でのペット終生飼育の支援、動物福祉の向上、安心してペットと暮らせる社会づくりへの貢献 |
家族であるペットにも将来の安心を
ペットも大切な家族の一員です。将来にわたって安心して暮らせるように、備えておくことが大切です。日々の健康管理や定期的な動物病院での健診、必要なワクチン接種も欠かせません。突然の病気やケガに備えて、ペット保険に加入するケースも増えています。
万が一、自分に何かあったときに、ペットを預かってくれる信頼できる人や施設を探すことが重要です。ペット信託を検討する場合には、ペットの性格や健康状態、かかりつけの動物病院などの情報をまとめましょう。いざという時に非常に安心です。毎日たっぷりと愛情を注いで、しつけやコミュニケーションを取っているペットも、心穏やかに過ごせます。
まとめ:ペットは「財産」で「家族」
ペ

ットを「財産」として扱う現行の法制度と、「家族」として接する飼い主の意識の違いが、将来的に顕在化するかもしれません。高齢化や単身世帯の増加を背景に、ペットの生活保障や引受先の確保は、重要な社会課題として注目されています。
ペット信託などは、そのような課題に対応する有効な手段です。一方で、税務上の取扱いや実務の運用では、依然としてグレーな部分も多いのです。今後は、信託契約の透明性の確保や、受託者の選任基準の明確化、相続税との整合性を含めた、包括的な制度が求められます。
飼い主の意志を尊重することは大切です。しかし、ペットの生活と福祉を守るためには、法制度・税制度・信託実務の三位一体の整備が不可欠です。今後の制度の進展や動向について、飼い主や相続人は、より一層注視しなければなりません。
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