遺産隠しの解決は話し合いや調停などの方法がありますが、時効を意識して手続きを進める必要があります。遺産調査は時間を要することも多く、専門家への相談がおすすめです。
亡くなられた家族の遺産は、一体どのように家族で分けるのでしょうか。生前に残された遺言書がない場合は、法定相続人に該当する方同士で「遺産分割協議」を行った上で、誰がどのような財産を取得するか決定します。
しかし、亡くなられた家族の遺産がもしも隠されていたら、損をしてしまう相続人が発生します。このような「遺産隠し
は発見が遅れるほど回復が難しくなるため注意が必要です。そこで、本記事では遺産隠しについて、知っておきたい時効や取り戻す方法、実務上の注意点を詳しく解説します。
遺産隠しとは何か
相続が始まると、亡くなられた家族(被相続人)の財産を調査し、正しく相続手続きを進める必要があります。遺産の調査が漏れてしまうと、正しい内容の相続税申告や相続登記ができなくなるなど、トラブルに発展するおそれがあるため注意が必要です。では、遺産が隠される「遺産隠し」とは、一体どのようなことを意味するでしょうか。
一部の相続人が遺産を隠してしまうこと
「遺産隠し」とは、一部の相続人が他の相続人に無断で遺産を隠したり、勝手に使い込んだりする行為を指します。例として、被相続人名義の預貯金口座から無断でお金を引き出したり、現金や貴金属を持ち出したりする行為です。
こうした行為は、法的には不当利得や横領に該当するおそれがあり、重大な違法行為とされます。
生前・相続開始後のいずれも遺産隠しは発生する
遺産隠しは被相続人が亡くなった後に行われるとは限らず、生前から起きることも少なくありません。生前に子が親の預金を勝手に引き出して使い込んだり、相続開始後に遺産分割協議を前に現金などを着服することもあります
いずれの場合も、他の相続人が気づくのが遅れると、後から発覚しても「時効」によって取り戻しが難しくなることがあります。
遺産隠しが行われるとどうなる?
もしもご自身が知らないところで、別の相続人によって遺産隠しが行われるとどのような事態が起きるでしょうか。この章では財産を隠された際に起こり得るトラブルを紹介します。
事実を知らない相続人が損をする
遺産隠しが行われると正しい遺産総額が把握できず、間違った遺産総額で遺産分割協議が行われてしまうおそれがあります。
結果として他の相続人が本来の取り分を受け取れない事態が発生します。よくあるケースとしては、生前に親と同居していた相続人が親の財産を使い込むケースです。同居していなかった相続人は生前の親の財産状況を詳しく把握していないため、隠された事実に気付かないおそれがあります。
税務調査を受けるリスクがある
隠された遺産が後に発覚すると、相続税の申告漏れとして税務署の調査対象になる可能性があります。悪質なケースでは追徴課税や延滞税が課される可能性もあります。遺産隠しを放置することは、相続人全体に不利益を及ぼす行為です。
相続人間で大きなトラブルに発展することも
「兄が預金を勝手に使っていた」「妹が現金を抜き取っていた」といった遺産隠しは、親族間に亀裂が起きる行為です。気付いた後は正しい遺産分割に向けて遺産の再調査が必要になります。
生前の使い込みの発覚には「不当利得返還請求」、相続開始後の遺産隠しには「遺産分割調停」などが必要となるケースも多く、相続人間の話し合いが難航するため裁判所に解決を求めざるを得ないリスクも発生するのです。
知っておきたい遺産隠しの時効とは
「これって遺産が隠されているかも」と思ったら請求は「時効」を意識して早めに始めることが大切です。そこで、本章では知っておきたい遺産隠しの時効について解説します。
不当利得返還請求の時効
使い込みによる遺産隠しが発覚した場合、不当利得返還請求で返還を求めることが可能です。この場合、原則として2020年4月1日以降の不当利得は、「知った時」から5年、または「行為時」から10年のいずれか早い方です。
2020年3月31日以前に発生した場合は、行為時または返還可能時(使い込み時)から10年です。
不法行為に基づく損害賠償請求
上記の不当利得返還請求以外に、使い込みに対しては「不法行為に基づく損害賠償請求」という方法での請求も可能です。こちらの場合は被害を知った時から3年、行為時から20年という時効があります。事実上相続で使い込みが発覚したら3年以内に請求する必要があるため、速やかに弁護士へ相談することがおすすめです。
遺産分割調停
以前は生前の使い込みについて遺産分割調停はできなかったのですが、2019年民法改正後は使い込みをした相続人を除く相続人全員の同意があれば調停を申立てすることもできます。
遺産分割や遺産分割調停には時効は設けられていませんが、気付いたら速やかに申立てをすることがおすすめです。(※)
(※)特別受益、寄与分の主張を行う場合は2023年の民法改正により相続開始から10年、遺産分割の取消を主張する場合は5年の時効があります。
遺産を取り戻す方法と注意点
使い込みが疑われる場合、遺産を取り戻す方法とは具体的にどのようなものでしょうか。この章では各手続きについてわかりやすく解説します。
相続人間の交渉
まずは、使い込みの証拠をもとに相手方相続人と交渉を行います。
通帳の入出金履歴、保険の明細、メールやLINEでのやり取りなど、客観的な証拠を整理することがポイントです。感情的な対立を避け、弁護士を通じて冷静に話し合うのが望ましいでしょう。
調停や訴訟
交渉で解決できない場合、家庭裁判所での遺産分割調停や、地方裁判所での訴訟を行います。調停では第三者である調停委員が仲介するため、対立を和らげつつ話し合いを進められます。
高額の使い込みなど悪質なケースでは、横領罪・背任罪として刑事告訴を検討することも可能です。
請求における注意点
請求を進める際には、以下の点に注意しながら進めましょう。
①時効の確認
発覚から長期間が経過すると請求できなくなるため、早めの対応が不可欠。
②専門家への相談
相続人間で感情的なトラブルに発展しやすく、法的手続きも複雑なため、弁護士のサポートを受けることが望ましいでしょう。
③証拠の保存
通帳コピー・メール・音声・スクリーンショットなど、相手方の関与を示す記録はすべて保管しましょう。
遺産隠しは徹底調査を!調査の専門家へ相談すべき理由
遺産隠しの発見には、正確な資産調査が欠かせませんが、インターネットバンキング・暗号資産(仮想通貨)などのデジタル資産が関係する場合、個人での調査は困難です。そこで、本章では遺産隠しの対抗するための調査を専門家へ相談すべき理由を解説します
デジタル資産は見つけにくい
近年、デジタル資産と呼ばれる相続人が把握しづらい財産が増えています。暗号資産などが代表的な資産です。こうした資産はログイン情報やデバイスがないとアクセスできないため、専門家によるデジタル調査の支援が重要です。
また、遺産隠しではデバイス周辺に強い相続人とそうではない相続人との間で情報格差が生じやすく、遺産隠しが巧妙な場合は気付かないという問題点もあります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、遺産調査は経験豊富な専門家への相談がおすすめです。
※ここによろしければ不正調査の誘導につながるURLを入れてください。
調査に時間を要すると相続手続き全体が遅れてしまう
隠し財産の有無を確認するのに時間がかかると、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)を過ぎてしまうリスクがあります。また、調停や訴訟には使い込みをされた側が証拠を収集する必要があります。早期の相続トラブル解決を目指すためにも、迅速な遺産調査が不可欠です。
そのため、調査は早期に専門家へ依頼するのが理想的でしょう。ご自身で調査を行うよりも迅速かつ法的に適正な調査を行えます。
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まとめ
遺産隠しは、家族間の信頼を壊すだけでなく、時効によって取り戻せなくなるリスクもあります。特に、デジタル資産などの新しい形の財産が関わる場合、個人での調査には限界があります。
隠された遺産に気づいたら、迅速な調査と法的対応こそが、失われた遺産を取り戻すための最短ルートです。

