「スマホのPayPay残高や、Suicaにチャージしたお金。もし自分に何かあったら、これはどうなるんだろう」
キャッシュレスでの支払いが当たり前になったいま、そんな疑問を持つ方が増えています。
私は介護福祉士として15年以上、高齢者やそのご家族と接してきました。その中で感じるのは、現金や預貯金は気にかける方が多い一方で、電子マネーやコード決済の残高は「相続」の話からすっぽり抜け落ちやすいということです。
ですが、スマホやカードの中のお金も、立派なあなたの財産です。 この記事では、PayPayや電子マネーの残高は誰が受け取れるのか、サービスごとの違いと、家族を困らせないための備えを、現場の視点からお伝えします。
データで見る|「現金を持たない暮らし」はもう特別ではない

まずは、いまの状況を数字で確認しましょう。
経済産業省によると、2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%と、過去最高を更新しました。買い物の金額のうち、およそ4割以上が現金以外で支払われている計算です。この割合は年々上がり続けています。
「キャッシュレスは若い人のもの」というイメージも、もう過去の話です。 モバイル社会研究所の2024年の調査では、QRコード決済を使う人は60代で半数を超え、70代でも約3割にのぼりました。Suicaやnanacoといった電子マネーまで含めれば、利用するシニアの割合はさらに高くなります。
つまり、いまや高齢者のスマホやお財布の中にも、「目に見えないお金」が当たり前のように入っている時代だということです。 そして、その残高は、本人が元気なうちに伝えておかなければ、家族にはなかなか届きません。
そもそも、電子マネーの残高は相続できる?
結論からお伝えします。 電子マネーやコード決済の残高は、相続財産に含まれます。 ただし、「現金として払い戻せるかどうか」は、サービスごとの規約によって大きく変わります。
電子マネーやPayPay残高の多くは、法律上「前払式支払手段」と呼ばれます。資金決済法という法律にもとづくもので、簡単にいえば「先にお金を預けて、後で使う仕組み」です。 このチャージ済みの残高は、亡くなった方の財産として扱われ、原則として相続の対象になります。
「使えるお金」でも「現金に戻せる」とは限らない
ここで注意したいのが、「相続できる」と「現金で受け取れる」は、必ずしもイコールではない、という点です。
たとえば、残高を相続人が引き継いで買い物に使えるサービスもあれば、現金での払い戻しには応じていないサービスもあります。 同じ「電子マネー」でも、運営する会社の方針によって扱いがまったく違うのです。だからこそ、自分が使っているサービスがどのタイプなのかを、知っておくことが大切になります。
サービス別|あなたの残高は受け取れる?引き継げる?

ここからは、代表的なサービスごとに、残高の扱いを見ていきましょう。 なお、各社の規約は見直されることがあります。実際に手続きをする際は、必ずそのサービスの最新の案内を確認してください。
PayPay残高は、相続人が払い戻しを受けられる
利用者の多いPayPayは、かつて「契約者が亡くなると残高は受け取れない」とされていました。 ですが、2021年の規約改定によって、相続人による払い戻しが認められるようになりました。
対象となるのは、PayPayマネー・PayPayマネー(給与)・PayPayマネーライトといったチャージ残高です。手続きには、おもに次のような書類が必要になります。
- 死亡が確認できる書類(戸籍謄本・除籍謄本など)
- 請求する人が相続人だと分かる戸籍謄本一式
- 法定相続情報一覧図
- 登録者の携帯電話の契約書または請求書
- 請求する人の本人確認書類
一方で、PayPayポイントは相続の対象外です。ポイントは多くのサービスで「本人だけが使えるもの」とされており、引き継げないのが一般的です。 具体的な手続きは、PayPayのカスタマーサポートへの問い合わせから始まります。
交通系(Suica・PASMO)は、法定相続人が払い戻しできる
SuicaやPASMOなどの交通系電子マネーは、比較的引き継ぎやすいタイプです。 モバイルSuicaや記名式のカードは、法定相続人が所定の手続きを行えば、残高の払い戻しを請求できるとされています。チャージ残高に加え、カードのデポジット(預り金)も対象になります。
普段の移動や買い物で使う方が多いだけに、残高が残ったままになりやすいサービスでもあります。
流通系(WAON・楽天Edy・nanaco)は、サービスごとに扱いがバラバラ
スーパーやコンビニで使う流通系の電子マネーは、同じ「流通系」でも、亡くなったあとの扱いが大きく分かれます。代表的な3つを見てみましょう。
- WAONは、発行元によって対応が異なります。イオン銀行が発行するWAONは相続の手続きで返金を受けられますが、提携カード会社が発行するWAONでは返金に対応していないケースもあります。必ずカスタマーサポートで確認しましょう(なお、WAONポイントは対象外です)。
- 楽天Edyは、相続の手続きが不要です。 公式には、「残高を使い切ってから破棄してほしい」と案内されています。
- nanacoは、2022年11月の規約改定で、以前は明記されていた『会員資格喪失・残高消滅』の条文が削除されました。ただし、相続人への払い戻しについても現時点では明文化されていないため、手続きについては必ずカスタマーサポートへ確認することをおすすめします。
このように、「流通系だから使い切り」と、ひとくくりにはできません。 だからこそ、自分が使っているサービスは、返金できるのか・それとも消えてしまうのかを、知っておくことが大切です。
いちばんの壁は「相続できるか」より「気づいてもらえるか」
ここまでサービスごとの違いを見てきましたが、現場で本当に多いのは、実はもっと手前のつまずきです。 それは、家族が「残高の存在そのものに気づけない」という問題です。
スマホにロックがかかっていれば、中のアプリを開くことすらできません。 「どのサービスに、いくら入っているのか」が本人の頭の中だけにあると、家族は手がかりすらつかめないのです。せっかく相続できる残高でも、見つけてもらえなければ、宙に浮いてしまいます。
しかも電子マネーは、銀行の通帳のような「紙の記録」が残りません。
明細や通知が郵便で届かないため、家族には「そもそも使っていたかどうか」を確かめるきっかけすらないのです。本人が元気なうちに伝えておかなければ、残高は存在ごと見過ごされてしまいます。
今日からできる|電子マネーを家族に残す4ステップ

「難しそう」と感じるかもしれませんが、やることはシンプルです。 今日から始められる4つのステップを紹介します。
ステップ1:使っているサービスを書き出す
まずは、自分が使っている電子マネーやコード決済を、すべて書き出してみましょう。 PayPay、Suica、nanaco、楽天Edy、WAONなど。「何を使っているか」を見える形にすることが、第一歩です。
ステップ2:「ありか」と手がかりを残す
次に、それぞれの残高の「ありか」をメモに残します。 パスワードそのものを書き出す必要はありません。「このスマホに入っている」「このサービスを使っている」と、たどり着くための手がかりを残しておくだけで十分です。
ステップ3:高額をためこまない
電子マネーは、便利だからとつい多めにチャージしがちです。 ですが、現金に戻せないサービスもあることを考えると、必要な分だけをこまめにチャージするほうが、もしものときに困りません。使う予定のない大きな残高は、ためこまないのがおすすめです。
ステップ4:エンディングノートにまとめ、年に一度見直す
書き出した情報は、エンディングノートに「お金」のひとつとしてまとめておきましょう。 サービスは知らないうちに増えたり減ったりします。誕生日など、年に一度のタイミングで見直すと、情報が古くなりません。
介護とお金の現場から伝えたいこと

私が関わってきたご家族の中にも、亡くなった後、「スマホが開けず、どのアプリにお金が入っているのかも分からない」と困り果てたケースがありました。 あとから調べてみると、いくつもの電子マネーに少しずつ残高が残っていて、合わせると思っていたよりまとまった額になっていた、ということもあります。
電子マネーの残高は、本人にとっては「いつものお金」です。 ですが、伝え方が抜けていると、その存在ごと家族に気づかれません。
特別な手続きは要りません。 「ここを見てね」と、たった一つの手がかりを残しておくだけで、残された人の負担は大きく変わります。判断できる今だからこそ、落ち着いて準備を進められます。
まとめ
PayPayや電子マネーの残高は、相続財産に含まれる「あなたのお金」です。 ただし、現金として払い戻せるかどうかは、サービスごとに違います。そして何より、家族に気づいてもらえなければ、その残高は届きません。
放置したときのリスクと、生前にできる対策をまとめました。
【放置すると起こること】
- nanacoのように、規約上は残高そのものが消えてしまうことがある
- 返金できるWAONやSuicaでも、存在に気づかれなければ手続きされない
- 複数のサービスに散らばった残高が、まとめて見落とされる
【生前にできる対策】
- 使っている電子マネー・コード決済を書き出す
- 残高の「ありか」と、たどり着く手がかりを残す
- 高額をためこまず、エンディングノートに一緒にまとめる
「自分だけで整理するのは不安」「何から手をつければいいかわからない」という方は、デジタル終活を専門にサポートするサービスに相談するのもおすすめです。 専門家と一緒に進めれば、電子マネーも預貯金も漏れなく整理でき、安心して備えを終えられます。
スマホの中の小さなお金まで、大切な家族へ。 判断できる今こそ、小さな一歩を踏み出してみませんか。
この記事の監修者
yusuke /介護福祉士・FP3級

介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。FP3級。介護の現場で見てきた「本当に困ること」をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。
出典
- 経済産業省「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
- モバイル社会研究所(NTTドコモ)「シニアのQRコード決済利用率」(2024年)
- つぐなび(船井総研)「電子マネー(PayPay等)は相続可能?死亡後の手続き方法などをご紹介」
- 税理士法人トゥモローズ「電子マネーは相続可能|手続き〜相続税評価方法」
- nanaco「nanacoカード会員規約」第12条(退会および会員資格の喪失)
- イオン銀行 公式FAQ「【相続】被相続人がWAONをもっている場合どうなりますか?」


