生前にできる最大の相続対策——「情報の整理」が家族を救う理由

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「父の口座が、どこの銀行にあるのか分からないんです」

相続の手続きに追われるご家族から、こんな声を聞くことがあります。

私は介護福祉士として15年以上、介護の現場でご利用者やご家族と接してきました。 現在は介護タクシーの事業者として、手続きに走り回るご家族を銀行や役所へお送りすることもあります。

その経験から言えるのは、相続手続きを本当に難しくするのは、財産の多さではなく「情報の欠如」だということです。

どこに、何が、どれだけあるのか。 それが分からないだけで、すべての手続きが止まってしまいます。

この記事では、生前の相続対策として残しておくべき「情報リスト」と、今日からできる整理の始め方をお伝えします。

目次

相続手続きには「待ってくれない期限」がある

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まず知っておいてほしいのは、相続の手続きには法律で決められた期限があることです。

  • 相続放棄・限定承認……相続の開始を知ったときから3か月以内(家庭裁判所へ申述)
  • 準確定申告……亡くなった方の所得税の申告。相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内
  • 相続税の申告・納付……亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内

たとえば相続放棄は、亡くなった方に借金があった場合の大切な選択肢です。 ところが、借金があるかどうか分からなければ、放棄するかどうかの判断すらできません

財産の全体像がつかめないまま、3か月はあっという間に過ぎます。 悲しみの中にいる家族にとって、この期限はあまりに短いのです。

しかも、期限のある手続きはほんの一部です。 自治体が遺族向けに配る「おくやみハンドブック」が数十ページの冊子になるほど、死後の手続きは多岐にわたります。

そして、その一つひとつで「情報」が必要になります。

データで見る|親の情報を、家族はここまで知らない

「うちは家族仲がいいから大丈夫」と思うかもしれません。 ですが、データは別の現実を示しています。

2026年の民間調査(PR media「相続準備調査」)では、親の資産を「把握できている」子どもは35.4%にとどまりました。 なかでも見えていないのが預貯金で、親の預貯金を把握できていない人は73.0%にのぼります。

さらに驚くのは、一般社団法人終活協議会が2025年に行った調査です。 対象は終活ガイドの資格を持つ435名——つまり終活の知識がある人たちですが、それでも遺産の分け方について親と「まったく話していない」人が36.8%「話したいが、まだ話していない」人は30.3%と、意向はあっても対話に至っていない実態が見えます。

終活を学んだ人ですら、親とお金の話は切り出せないのです。

情報の欠如は、「争い」の入り口にもなります。
令和5年の司法統計では、家庭裁判所で成立した遺産分割の約77%が、遺産額5,000万円以下でした。 相続トラブルは、資産家だけの問題ではないのです。

さらに今の時代は、ここにデジタルの情報が加わります。 デジタル遺品の整理を経験した家族の8割強が困りごとに直面し、32%は故人のスマホのロックを解除できなかったという調査もあります(LIFULL senior・2024年)。

国民生活センターも2024年に、「スマホのロックが解除できない」「ID・パスワードが分からない」といった遺族からの相談事例を公表し、注意を呼びかけました。

情報を残さないことは、それだけで家族の時間と心をすり減らす原因になります。

生前に残しておきたい「情報リスト」【7分類】

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では、何を残しておけばいいのでしょうか。 私がおすすめするのは、次の7分類で書き出す方法です。

  • 財産の情報……銀行口座(支店名まで)・証券会社・保険・不動産・借入やローン
  • デジタルの情報……スマホのロック解除の手がかり・ネット銀行やネット証券の有無・サブスクの一覧
  • 人間関係の情報……もしものとき連絡してほしい人・かかりつけ医
  • 医療・介護の希望……延命治療の考え・介護を受けたい場所・持病やアレルギー
  • 契約ごとの情報……電気・ガス・水道・携帯電話・新聞などの契約先
  • 重要書類の保管場所……年金手帳・保険証券・不動産の権利証・実印の場所
  • 遺言書・エンディングノートの有無と保管場所

ポイントは、金額まで細かく書かなくていいということです。

相続手続きで家族が本当に困るのは、金額が分からないことではありません。 「存在」と「場所」が分からないことです。

「〇〇銀行の△△支店に口座がある」。 この1行があるだけで、家族の手続きはまったく違うものになります。

情報整理の始め方【3ステップ】

7分類を見て、「大変そうだ」と感じたかもしれません。 安心してください。完璧を目指さないことが、いちばんのコツです。

①まず紙1枚に、思いつくまま書き出す

最初から立派なノートを用意する必要はありません。 紙1枚に、7分類を見出しにして、思いつくまま書き出します。

エンディングノートを使うのも良い方法です。 ただ、楽天インサイトの2018年の調査では、エンディングノートを8割の人が知っているのに、「用意していない」人は86%でした。 用意しない理由でもっとも多いのは「書くきっかけがない」です(三菱UFJ信託銀行・2021年調査)。

きっかけは、この記事で構いません。 今日1行書けば、その1行のぶん家族が楽になります

②保管場所を決めて、「ありか」を家族に伝える

書いたリストは、決めた場所に保管します。 そして家族には、リストの置き場所だけを伝えておきます

中身を全部見せる必要はありません。 「何かあったら、あの引き出しを見て」——この一言で十分です。

注意点がひとつあります。 パスワードそのものを、リストに書き残すのはおすすめできません
盗難や紛失のとき、悪用される危険があるからです。 「ヒントだけを書く」「別の場所に分けて保管する」などの工夫をしてください。

③年に1回、見直して更新する

口座も契約も、状況は毎年変わります。 古い情報のリストは、かえって家族を混乱させることもあります。

おすすめは、誕生日や年末など「決まった日」に見直すことです。 年に1回、10分の点検で、リストは生き続けます。

介護の現場から伝えたいこと

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介護タクシーの仕事で、銀行や役所にお送りすることがあります。 何度も窓口を往復されているご様子でした。

「財産の話なんて今までしたことがないので、どこにいくらあるかわからなくて」

情報の整理が進まないいちばんの理由は、時間でも技術でもなく、この「話しにくさ」だと私は感じています。

でも、見方を変えてみてください。
情報リストは、財産の話ではありません。 「あなたを困らせないための準備」という、家族への手紙です。

親の側から「書いておいたよ」と伝えられたとき、ご家族は安心されるはずです。

まとめ

相続手続きを困難にするのは、財産の多さではなく「情報の欠如」です。

【放置すると起こること】

  • 財産の全容が分からず、3か月・4か月・10か月の期限に追われる
  • ネット銀行や証券の資産が見つからないまま埋もれる
  • 遺産額に関係なく、家族間のトラブルの火種になる
  • スマホのロックが解けず、手続きも思い出も止まる

【元気なうちにできる対策】

  • 7分類の情報リストを紙1枚から書き出す
  • パスワードは書かず、「存在」と「場所」を残す
  • リストのありかだけを家族に伝える
  • 年に1回、決まった日に見直す

デジタルの情報整理まで含めると、「何から手をつければいいか分からない」という方も多いはずです。
そんなときは、デジタル終活を専門にサポートするサービスに相談するのもおすすめです。 専門家と一緒なら、見落としなく整理を進められます。

情報の整理は、お金もかからず、今日から始められる最大の相続対策です。 
元気な今日が、いちばん書きやすい日です。



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この記事の監修者

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yusuke /介護福祉士・FP3級

介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。介護の現場で見てきた"本当に困ること"をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。

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