「親の物忘れが増えてきた。銀行のお金や実家の管理は、この先どうなるんだろう」
そんな不安を感じ始めた方に向けて、この記事では成年後見制度をわかりやすく解説します。
私は介護福祉士として15年以上現場に立ち、後見制度を利用されるご利用者やご家族と接してきました。
先に結論をお伝えします。
成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
判断能力が下がった後に使えるのは法定後見だけ。そして、内容を自分で決められる任意後見を選べるのは、元気なうちだけです。
この記事を読めば、2つの制度の違いと費用、デメリット、そして「なぜ認知症になってからでは遅いのか」までがわかります。
成年後見制度とは|判断能力が低下した方を守る仕組み

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分になった方の財産管理や契約を、法律的に支援する国の制度です。
預貯金の管理、介護サービスの契約、施設への入所手続き。
生活に必要なこうした行為は、すべて法律上の契約です。
判断能力を欠いた状態で結んだ契約は無効になり得るため(民法3条の2)、本人に代わって判断する人=後見人が必要になります。
最高裁判所の最新統計(令和7年・2025年分)によると、成年後見制度の利用者は全国で約25万9,900人。
そして、後見が始まった原因の約6割は認知症です。申立ての動機でいちばん多いのは預貯金等の管理・解約でした。
つまりこの制度は、多くのご家庭にとって「認知症とお金」の問題として、ある日突然やってくるものなのです。
認知症で銀行口座が動かせなくなる「口座凍結」への備えは、別の記事で詳しく解説しています。

成年後見制度は2種類|法定後見と任意後見の違い
同じ「後見」でも、2つの制度は始まり方がまったく違います。順番に見ていきましょう。
①法定後見——判断能力が下がった「後」に、家庭裁判所が後見人を選ぶ
法定後見は、すでに判断能力が不十分になった方のために、家族などが家庭裁判所へ申し立てる制度です。
本人の状態に応じて、後見・保佐・補助の3つの類型に分かれます。
判断能力をほとんど欠く状態なら後見、著しく不十分なら保佐、不十分なら補助という段階のイメージです。
令和7年の申立ては合計約4万3,000件で、このうち最も重い類型である後見開始が約2万9,000件と大半でした。
ここで大切なポイントがあります。
誰が後見人になるかを決めるのは、家族ではなく家庭裁判所です。
最新の統計では、親族が後見人に選ばれたのは約16.4%にとどまりました。残りの8割超は、司法書士や弁護士などの第三者です。
②任意後見——元気な「うち」に、将来の後見人を自分で選ぶ
任意後見は、判断能力があるうちに「将来、誰に何を任せるか」を自分で決めて契約しておく制度です。
契約は公証役場で公正証書にすることが法律で決められています。
効力が生じるのは、判断能力が下がった後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときからです。
「認知症になったら、長女に通帳の管理と施設の契約を任せる」
このように、任せる相手も、任せる内容も、自分の意思で決められるのが法定後見との最大の違いです。
ただし、現実には任意後見の利用者は約2,833人。制度全体のわずか1%ほどにとどまります。
「選べる制度」があること自体、まだほとんど知られていないのです。
データで見る|成年後見制度の費用とデメリット

制度を検討するうえで、いちばん気になるお金の話を整理します。
法定後見でかかる費用は、大きく2段階です。
- 申立て時……収入印紙や郵便切手などの実費。医師の鑑定が必要と判断された場合は鑑定費用がかかる(最新統計では鑑定の実施は全体の約3.4%・実施された場合の費用は約85.8%が10万円以下)
- 開始後……第三者の専門職が後見人になった場合の報酬が月額2万円(東京家庭裁判所のめやす。管理財産が1,000万円を超えると月額3万〜6万円。実際の金額は裁判所が事案ごとに決定)
任意後見でかかる費用は、契約時の公正証書作成費用が合計1万7,000円ほど+送料などの実費です(2025年10月改定後の金額)。発効後は、任意後見監督人への報酬が別途かかります。
そのうえで、知っておきたい注意点を挙げます。
- 法定後見は後見人を家族から選べるとは限らない(親族は約16.4%)
- 専門職後見人への報酬は、原則として本人が亡くなるまで続く
- 一度始まると、途中で「やめる」ことは原則できない
- 財産は本人を守るためだけに管理され、家族の希望での売却や生前贈与などは原則できない
法定後見は本人の財産を守る大切な制度です。
ただ、自由度は決して高くないという現実は、始める前に知っておくべきだと私は思います。
認知症になってからでは「任意後見」を選べない
ここまで読むと、こう感じた方が多いのではないでしょうか。
「任せる人を自分で選べる任意後見のほうがいい」
そのとおりです。ただし、任意後見の契約は法律上の行為なので、意思能力を欠く状態になってからでは結べません。
認知症が進んでから慌てても、残されている道は実質的に法定後見だけになります。
さらに、法定後見には時間の問題もあります。
申立てから後見開始までは審理があり、最新統計では2か月以内に終わったものが約7割。
裏を返せば、残り3割は2か月以上かかっているということです。その間、本人の口座からお金を動かせず、ご家族が立て替えでしのぐケースは珍しくありません。
元気なうちに任意後見で備えるか、判断能力が下がってから法定後見に頼るか。
この選択ができるのは、元気な今だけです。
介護の現場から伝えたいこと

以前、ケアマネジャーの方から、こんな話を聞きました。
お父様の認知症が進み、施設への入所が決まったご家族。
ところが口座の管理をする人がいないため法定後見を申し立てたところ、後見人が決まるまでの数か月、施設費用はご家族が立て替えることになったそうです。
「制度があることは知っていたけれど、始まるまでの時間のことは知らなかった」
そう話されていたと聞きました。
私が現場で感じるのは、後見制度は「使うかどうか」よりも、いつ知るかで結果が変わる制度だということです。
元気なうちに知っていれば任意後見という選択肢があり、時間の備えもできます。この記事が、その「早く知るきっかけ」になれば嬉しいです。
まとめ|成年後見制度の備えは「元気なうちの終活」から
最後に、この記事の要点を知らずにいた場合と今できる備えに分けて整理します。
【知らずにいると起こること】
- 判断能力が下がった後は、選べるのは法定後見だけになる
- 後見人は家庭裁判所が決め、親族が選ばれたのは約16.4%にとどまる
- 専門職後見人への報酬が、原則亡くなるまで続く
- 申立てから開始まで審理があり、その間は口座のお金を動かせない
【元気なうちにできる備え】
- 任意後見契約を検討する(任せる人と内容を自分で決められる。公正証書費用は1万7,000円ほどから)
- 後見・保佐・補助など、制度の種類と費用を家族で共有しておく
- 通帳・保険・契約先など、財産の情報を一覧にして整理しておく
そして、どの備えにも共通する土台が情報の整理です。
後見人や家族が動くとき、最初につまずくのは「どこに何があるかわからない」こと。
銀行口座、保険、スマホやネットのアカウントまで含めて、デジタル終活のサービスもうまく使いながら、元気なうちの終活として整理を始めてみてください。
制度を知った今日が、選択肢がいちばん多い日です。
この記事の監修者

yusuke /介護福祉士・FP3級
介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。介護の現場で見てきた"本当に困ること"をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。
出典
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況——令和7年1月〜12月」 https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部「成年後見人等の報酬額のめやす」 https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf
- 日本公証人連合会「公証人手数料」(令和7年10月1日施行の改定後) https://www.koshonin.gr.jp/pdf/commission.pdf
- 任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索)第2条・第3条・第4条 https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150
- 民法(e-Gov法令検索)第3条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089


