「親の後見人に、私がなれると思っていました」
そうおっしゃったご家族に、私は何度かお会いしてきました。
私は介護福祉士として15年以上、介護の現場でご利用者やご家族と接してきました。
先に結論をお伝えします。
法定後見では、誰が後見人になるかを家族が決めることはできません。
後見人を選ぶのは家庭裁判所です。
そして実際に選ばれているのは、その多くが弁護士や司法書士といった専門家後見人と呼ばれる人たちです。
さらに、制度が始まると原則としてやめられず、後見人への報酬は本人が亡くなるまで発生し続けます。
ただ、この状況は変わることが決まりました。
2026年6月、成年後見制度を大きく見直す民法改正が成立しています。
この記事では、法定後見の実態をデータで確認したうえで、改正で何が変わるのか、そしていま元気なうちにできる備えまでをお伝えします。
法定後見とは|後見人を家庭裁判所が選ぶ制度
法定後見は、判断能力が下がった「後」に使う制度です。
ご家族などが家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所が本人を支援する人を選任します。
申立ての動機としてもっとも多いのは預貯金等の管理・解約で、次いで身上保護となっています。
認知症で銀行口座が凍結され、お金が動かせなくなって初めて申し立てる——このパターンが、現場ではいちばんよく聞きます。
口座凍結が起きたときに何が起こるか、そして成年後見制度の全体像と法定後見・任意後見の違いについては、それぞれ別の記事で詳しく解説しています。
データで見る|後見人の83.6%は親族以外が選ばれている

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
最高裁判所が公表している令和7年(2026年3月公表)の統計を見てみましょう。
令和7年12月末時点で、成年後見制度を利用している方は全国に259,901人います。
成年後見人等と本人との関係別の件数は、合計42,732件。そのうち——
- 親族が選ばれたのは7,014件で、全体の約16.4%
- 親族以外が選ばれたのは35,718件で、全体の約83.6%
前年は親族が約17.1%、親族以外が約82.9%でしたので、親族以外の割合はさらに増えています。
この親族以外の35,718件について、概況資料はさらに内訳を示しています。
以下の割合は、いずれも親族以外の35,718件を100としたときの数字です。
- 司法書士……11,966件(33.5%)
- 弁護士……8,903件(24.9%)
- 社会福祉士……7,280件(20.4%)
- 行政書士……2,235件(6.3%)
- 社会福祉協議会……1,615件(4.5%)
- 市民後見人……390件(1.1%)
親族以外のうち、司法書士と弁護士だけで約58%を占めています。
なお、親族を含めた全体42,732件に対する割合でみると、司法書士が約28.0%、弁護士が約20.8%です。
申立ての段階から、親族が候補に挙がっていない
もうひとつ、見落とされがちな数字があります。
令和7年に後見・保佐・補助の開始が認められた申立て(統計では「認容で終局した」と表記されます)のうち、親族が後見人等の候補者として申立書に記載されていたのは約19.7%でした。
つまり残りの約8割は、はじめから親族以外を想定して申し立てられているということです。
「家族がなりたがらない」のではありません。
財産の額や親族間の意見の食い違いなど、事情はさまざまです。
ただ結果として、法定後見は専門家に任せる制度になりつつある。
それが数字の示す現実です。
法定後見の問題点|指摘されてきた3つのこと
法定後見については、以前から次の3点が問題として指摘されてきました。
そして重要なのは、これらを問題として挙げているのが、他ならぬ法務省だという点です。
2026年の民法改正の資料に、改正が必要な理由としてはっきり書かれています。
①候補者を書いても、その人が選ばれるとは限らない
申立書には後見人の候補者を書くことができます。
ただし、それはあくまで希望です。
誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所であり、財産の額が大きい場合や親族間で意見が分かれている場合には、専門家が選ばれることがあります。
法務省の資料では、選任にあたって本人の意見の尊重をさらに図るべきだという課題が挙げられています。
②いったん始まると、原則としてやめられない
これが、成年後見のデメリットとしてもっとも重いところです。
法務省の資料には、現行制度の課題としてこう書かれています。
後見・保佐の制度は、事理弁識能力が回復しない限り利用をやめることができない
遺産分割のために申し立てたとしても「その手続きが終わったら終了」とはならないのです。
判断能力が回復しない限り、制度は本人が亡くなるまで続きます。
③後見人の交代が難しい
「この後見人とは合わない」と感じても、簡単に代えることはできません。
法務省の資料でも「交代が困難でありニーズに合った保護を受けることができない」と課題が示されています。
弁護士や司法書士が後見人になったときの費用

法定後見でよく心配されるのが、後見人の費用です。
専門家が後見人になった場合、報酬は家庭裁判所が決定します。
東京家庭裁判所が公表している「報酬額のめやす」によると——基本報酬のめやすは、月額2万円です。
ただしこれは通常の後見事務を行った場合の金額で、管理する財産が多い場合には増額されます。
管理財産額が5,000万円を超える場合には、月額5万〜6万円とされています。
さらに、遺産分割や訴訟など特別な事務を行った場合には、付加報酬が上乗せされることがあります。
後見人を監督する成年後見監督人が選任されると、その報酬も別に必要です。
令和7年に後見・保佐・補助の開始が認められた39,860件のうち、監督人が選任されたのは1,375件。
全体の約3.4%にとどまりました。
気をつけたいのは「いつまで続くか」
金額そのものよりも、期間を意識してください。
報酬は一度きりではなく、制度が続くかぎり毎年発生します。
仮に月額2万円が10年続いたとすると、単純計算で240万円。
本人の財産から支払われ続けることになります。
「思ったより高い」のではなく、「思ったより長い」——これが、ご家族が後から驚かれるポイントです。
成年後見のデメリットは2026年の民法改正でどう変わるか
ここまでお伝えした問題点は、国も課題として認めていました。
2026年6月17日、成年後見制度と遺言制度を見直す民法改正が成立し、6月24日に公布されています(令和8年法律第45号)。
主な見直しは次のとおりです。
- 後見・保佐の制度を廃止し、「補助」の制度に一元化する
- 本人にとって必要な範囲・必要な期間での利用を可能にする
- 制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、判断能力が回復していなくても終了できるようにする
- 家庭裁判所が補助人を選任する際、考慮すべき要素の冒頭に本人の意見を置く
- 補助人が職務を行う際、本人から話を聴くなどして意向を把握することを義務づける
- 本人の利益のため特に必要があるときは、補助人を解任できるようにする
「選べない」「やめられない」「交代できない」という3つの問題に、それぞれ手当てが入った形です。
ただし、施行はまだ先です
ここを誤解しないでください。
この改正は、まだ施行されていません。
成年後見制度に関する部分の施行は、公布から2年6か月以内。つまり遅くとも2028年12月24日までに始まります。
言い換えると、今申し立てれば、動くのは現行制度です。
いま備えるなら任意後見|後見人を自分で選べる方法

では、施行までの数年間はどうすればいいのでしょうか。
答えはシンプルです。
判断能力があるうちに、自分で後見人を決めておくことです。それが任意後見契約です。
法定後見と任意後見の決定的な違いは、ここにあります。
- 法定後見……判断能力が下がった後に、家庭裁判所が後見人を選ぶ
- 任意後見……元気なうちに、自分が信頼する人と契約しておく
任意後見なら、長男に頼みたい、姪に頼みたいという希望をそのまま形にできます。
ただし、任意後見契約は判断能力があるうちにしか結べません。
認知症と診断されてからでは、この選択肢そのものが消えてしまいます。
「選べない」のではなく、「選ぶ機会を逃した」というのが正確な表現です。
任意後見契約の手続きや費用、任せる人の選び方については、別の記事で詳しく解説しています。
介護の現場から伝えたいこと

以前、こんな言葉を聞いたことがあります。
「母のお金なのに、母のために使うのに、いちいち説明しないといけないんです」
お母様に司法書士の後見人がついているご家族の言葉でした。
決してその後見人の方が悪いわけではありません。制度に沿って、きちんと財産を守っておられます。
ただ、ご家族の「してあげたい」という気持ちと、制度の手順とのあいだに、どうしても距離が生まれてしまうのです。
そしてもうひとつ、私が現場で強く感じることがあります。
この距離は、ご本人が元気なうちなら、ずっと小さくできるものだということです。
誰に任せたいのか。何に使ってほしいのか。それを本人の言葉で決めておけるのは、判断能力がある今だけです。
法定後見は、備えがなかったときの受け皿として、なくてはならない制度です。
だからこそ、受け皿を使わずに済む準備を、元気なうちにしておいてほしいと思っています。
まとめ|法定後見の問題点と、いまできる備え
最後に、要点をリスクと備えに分けて整理します。
【放置すると起こること】
- 後見人を家庭裁判所が選ぶため、家族が希望しても専門家が選ばれることがある
- 実際に約83.6%は親族以外が選任されている
- 東京家裁の目安では月額2万円が基本で、財産が多いと増額される
- 報酬は本人が亡くなるまで発生し続ける
- 判断能力が回復しない限り、制度を途中でやめられない
【元気なうちにできる対策】
- 任意後見契約で、後見人を自分で決めておく
- 誰に何を任せたいのかを、本人の言葉で書き残しておく
- 口座や保険、ネット上の資産を一覧にしておく
- 2026年の民法改正の内容を知り、施行までの数年間をどう過ごすか決めておく
財産の情報が家族に伝わっていなければ、後見人が誰になっても手続きは止まります。
デジタル終活サービスを使えば、口座やネット上の資産、任せたい相手の希望を、ひとつにまとめて残しておけます。
後見人が選べないのではありません。選べるうちに選んでおく——それが大切なのです。
この記事の監修者

yusuke/介護福祉士・FP3級
介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。介護の現場で見てきた「本当に困ること」をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。
出典
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況——令和7年1月〜12月」 https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」 https://www.moj.go.jp/content/001465481.pdf
- 東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部「成年後見人等の報酬額のめやす」 https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf


