「エンディングノートは書き終えたから、財産のことはもう安心」
終活を進めている方の中で、そのように考えている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、ここにはひとつ大きな誤解があります。
エンディングノートには、法的な効力がありません。
財産の分け方を法的に実現できるのは、法律の方式を満たした遺言書のみです。
ただし、だからと言ってエンディングノートが無意味というわけではありません。
エンディングノートには、遺言書にはできない大切な役割があります。
私は介護福祉士として15年以上、介護の現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営しています。
この記事では、現場でお聞きしたことや感じたことを交え、エンディングノートと遺言書の違いを説明していきます。
また、「どんな介護や医療を受けたいか」という自分の希望と、「誰に何を残すか」という財産の分け方を二本立てでかなえる使い分けまでお伝えします。
エンディングノートと遺言書の違い|分かれ目は「法的効力」

エンディングノートと遺言書のいちばんの違いは、法的効力があるかないかです。
そしてその分かれ目は、法律に方式が定められているかどうかにあります。
遺言について、民法はこう定めています。
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。 (民法第960条)
つまり遺言書は、民法の方式を満たして初めて効力をもつ法的な文書です。
一方のエンディングノートは、法律に定めのない自由な記録。
書き方も内容も決まりがなく、その代わり、財産の分け方を書いても法的に実現する力はありません。
「エンディングノートだから無効」ではなく「方式」で決まります
ここで、正確にお伝えしておきたいことがあります。
効力を分けるのは「遺言書」「エンディングノート」という名前ではなく書き方。つまり方式です。
たとえば、エンディングノートの1ページに、財産の分け方の全文・日付・氏名を自分の手で書き印を押していれば、自筆証書遺言として認められる可能性があります。
逆に、表紙に「遺言書」と書いてあっても、方式を満たしていなければ効力はありません。
とはいえ、市販のエンディングノートは選択式や記入欄の形式が多く、一般的な書き方では方式を満たしません。
「エンディングノートに書いたから大丈夫」と考えるのは危険、と覚えておいてください。
データで見る|エンディングノートは「知られているのに書かれていない」
ここでは、エンディングノートがどれくらい使われているか数字で見てみます。
少し前の調査ですが、楽天インサイトの2018年の調査では、エンディングノートを知っている人は82.8%にのぼる一方、用意していない人は86.0%と9割弱を占めました。
8割の人が知っているのに、9割近くの人がまだ書いていない。これがエンディングノートの現在地です。
遺言書のほうはどうでしょうか。
公正証書遺言の作成件数は、2025年(令和7年)で123,891件。
法務局が自筆の遺言書を預かる保管制度の利用も、2024年(令和6年)は23,419件と、年間2万件を超えています。
エンディングノートは「知っているのに書いていない」、遺言書は「書く人が着実に増えている」
結果は対照的ですが、どちらも今から始める人が多い。つまり、今から始めてもまったく遅くありません。
まだ始めていない方は「終活の入り口としてエンディングノートを手に取り、財産のことは遺言書へ」
この流れが進めやすいです。
次から具体的に何を書けばいいのかを解説していきます。
エンディングノートにできること|法的効力がなくても価値がある

まずはエンディングノートから。
法的効力がないと聞くと、エンディングノートの価値まで低く見えてしまうかもしれません。
ただし、それは誤解です。
エンディングノートには、遺言書には書ききれないことを自由に残せるという大きな強みがあります。
具体的には、以下のような内容を書いていきます。
- 医療や介護の希望……延命治療の考え方、介護を受けたい場所、食べものの好み
- お金や契約の情報……口座やカード、保険、サブスクなどの一覧
- 葬儀やお墓の希望……形式、呼んでほしい人、遺影に使ってほしい写真
- 家族への気持ち……感謝の言葉、伝えそびれていた想い
介護の現場にいた立場から言うと、この中でいちばん家族を助けるのは、医療や介護の希望です。
ご本人が自分の希望を伝えられない状態になったとき、ご家族は「これでいいのだろうか」と迷いながら決断を重ねることになります。
エンディングノートに希望が書いてあれば、その迷いをひとつずつ減らすことができます。
なお、口座や契約の情報をどう整理するかは、別の記事で詳しく解説しています。
遺言書にしかできないこと|財産の分け方に法的効力をもたせる

次に遺言書。
エンディングノートとの大きな違いは、民法の方式を満たすことで財産の分け方に法的効力をもたせられることです。
方式には3つの種類があります(民法967条)。
- 自筆証書遺言……全文・日付・氏名を自分の手で書き、印を押す(民法968条)
- 公正証書遺言……公証人が作成する、もっとも確実な方式
- 秘密証書遺言……内容を秘密にしたまま存在だけ証明する方式(利用は少数)
自分で書く自筆証書遺言なら費用はほぼかからず、法務局の保管制度を使えば1通3,900円で原本を預かってもらえます。
書くこと自体のハードルは、思っているより高くありません。
ただし方式を1つでも欠くと無効になるため、書き方の正確さが重要です。
自筆証書遺言の具体的な書き方と、無効になりやすいポイントは別の記事で詳しく解説しています。
2026年の民法改正で遺言書はさらに身近になります
エンディングノートから遺言書へ進むうえで、知っておいてほしい最新の動きがあります。
2026年(令和8年)6月17日、遺言のルールを変える民法などの改正が国会で成立しました(令和8年法律第45号)。
遺言書に関わる大きな変更は2つです。
- 押印の任意化……自筆証書遺言などで求められてきた押印が、任意になります
- 保管証書遺言の新設……パソコンなどの電子データで作成する遺言書が新たに認められ、法務局で保管する仕組みができます
注意していただきたいのは、これらはまだ施行されていないことです。
押印の任意化は公布から1年以内、保管証書遺言は3年以内に施行される予定です。
それでも方向ははっきりしています。
国は、「遺言書をもっと書きやすくする方向へ動いている」ということです。
「難しそうだから」と後回しにしてきた方にとって、追い風の時代が来ます。
終活の二本立て戦略|エンディングノートと遺言書の使い分け3ステップ

エンディングノートと遺言書、それぞれの役割が見えたところで、生前準備を二本立てで進める手順を3ステップで整理します。
①エンディングノートで「全体の棚卸し」をする
最初の1冊は、エンディングノートから始めてください。
財産・契約・医療や介護の希望・家族への想い。
書く決まりがないからこそ、思いつくままに全体を書き出せます。ここで自分の状況が見えてきます。
②財産の分け方だけを遺言書にする
棚卸しをすると、「これは誰に残したい」という希望が出てきます。
その部分だけを、方式を満たした遺言書に書きます。
エンディングノートに書いた希望のうち、法的効力が必要なのは財産の分け方だけ。
遺言書はシンプルで構いません。
③遺言書のありかをエンディングノートに書く
最後に、作った遺言書の保管場所をエンディングノートに書いておきます。
せっかくの遺言書も、見つけてもらえなければ役に立ちません。
エンディングノートが遺言書への「案内板」になる——これが二本立てのいちばんの利点です。
なお、法務局の保管制度を使う場合は、あらかじめ指定した方に、遺言書が保管されていることを亡くなったあとに通知してもらえる仕組みもあります。
あわせて活用してみてください。
介護の現場から伝えたいこと

介護の仕事をしていて感じるのは、書類の準備は、気持ちの整理も一緒に進むということです。
エンディングノートを開くと、自分がどう暮らしたいか、家族に何を残したいかを、否応なく考えることになります。
それは重たい作業に見えて、実際に取り組んだ方からは「気持ちが軽くなった」という声を聞くことが少なくありません。
「法的効力があるかないか」という点だけでいえば、遺言書が主役に見えます。
ただ、実感としては、ご家族が日々助けられるのは、エンディングノートに書かれた小さな希望のほうです。
好きな食べもの、会いたい人、望む医療。それが分かるだけで、ご家族の介護は変わります。
どちらが上ということではなく、役割が違うふたつを一冊ずつ。
元気なうちに始めることをおすすめします。
まとめ|生前準備はエンディングノートと遺言書の二本立てで
エンディングノートと遺言書の特徴、生前準備での役割の整理でまとめます。
【エンディングノートの特徴】
- 医療・介護・葬儀の希望と家族への想い
- 財産や契約の情報の一覧
- 遺言書の保管場所の案内
- ただし法的効力はない(財産の分け方は実現できない)
【遺言書の特徴】
- 財産の分け方(法的効力をもつのは方式を満たした遺言書だけ・民法960条)
- 自筆証書遺言は全文・日付・氏名の自書+押印が現行の要件
- 法務局の保管制度は1通3,900円
- 2026年成立の民法改正で押印の任意化・電子データの保管証書遺言がこれから施行
エンディングノートに書き出す情報のうち、ネット銀行や証券口座、サブスクといったデジタル資産は、ご家族がいちばん見つけにくい部分です。
デジタル資産の生前整理サービス「デジ・タクセル」では、専門家と一緒に「何を残し、何を整理するか」を考えながら、ご家族が相続で困らない環境づくりをサポートしています。まずはサービス内容をご確認ください。
終活・生前準備は、大きなことをひとつやるより、役割の違う小さな準備を積み重ねるほうがうまくいきます。
この記事の監修者

yusuke /介護福祉士・FP3級
介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。介護の現場で見てきた「本当に困ること」をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。
出典
- 民法第960条・第967条・第968条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 法務省「民法等の一部を改正する法律の概要」(PDF) https://www.moj.go.jp/content/001465481.pdf
- 楽天インサイト「終活に関する調査」(2018年) https://insight.rakuten.co.jp/report/20180215/
- 日本公証人連合会「令和7年の遺言公正証書の作成件数について」 https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/yuigon2025.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度の利用状況」(PDF) https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/number.pdf
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/09.html
- 法務省「遺言書保管制度の通知(指定者通知)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/10.html


