自筆証書遺言と公正証書遺言——どちらを選ぶべきか?法的効力の違い

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「遺言書を書くなら、自筆と公正証書のどちらがいいのだろう」

遺言書の種類を調べ始めた方が、最初にぶつかる疑問だと思います。

先に結論からお伝えします。
方式さえ満たせば、法的効力そのものに優劣はありません。どちらも同じ力をもつ、正式な遺言書です。

違うのは効力ではなく、無効になるリスク・亡くなったあとの手続き・手間と費用の3つ。
答えは「どちらが上か」ではなく、ご自身の状況にどちらが合うかで決まります。

私は介護福祉士として15年以上、介護の現場でご利用者やご家族と接してきました。
現場では、終活や遺言書の話題にふれる機会も少なくありません。

この記事では、現場の実感も交えながら、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いから選び分けの基準までお伝えします。
どちらを選べばいいかの判断材料にし、残されるご家族が迷わないための準備のきっかけにしてください。

目次

遺言書の種類|自筆証書遺言と公正証書遺言が2大方式

自筆証書遺言と公正証書遺言の写真

はじめに、遺言書にはどのような種類があるか見てみましょう。
遺言書の種類は、民法967条で3つ定められています。

  • 自筆証書遺言……全文・日付・氏名を自分の手で書き、印を押して作る遺言書
  • 公正証書遺言……公証役場で、公証人が作成する遺言書
  • 秘密証書遺言……内容を秘密にしたまま存在だけを証明する方式(利用はごく少数)

実際に使われているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つが多いです。

簡単に言えば、自分で書くか、専門家に作ってもらうか。
この作り方の違いが、次からお伝えするすべての違いにつながっていきます。

法的効力に差はない|自筆証書遺言と公正証書遺言の本当の違い

自筆証書遺言と公正証書遺言の本当の違いの図解

まず、いちばん誤解の多いところから整理します。

「公正証書のほうが法的に強い」と思われがちですが、正確には違います。
民法の方式を満たしていれば、自筆証書遺言も公正証書遺言も効力は同じです。

では何が違うのか。違いは3つです。

  • 無効になるリスク……自筆証書は方式を1つ欠くだけで無効になるリスクを自分で背負う。
    公正証書は法律の専門家である公証人が作るため、方式の不備で無効になるリスクが低い
  • 亡くなったあとの手続き……自筆証書を自宅で保管していた場合は家庭裁判所の検認という手続きが必要。
    公正証書は家庭裁判所の検認不要
  • 手間と費用……自筆はほぼ無料で今日から書ける。公正証書は準備と数万円程度の費用がかかる

つまり選び方の本質は、書くときの手軽さと、残したあとの確実さのどちらを重視するかです。

自筆証書遺言の書き方と保管方法|費用を抑えて今日から書ける

「自筆証書遺言の4つの要件」図解

ここから、それぞれの書き方と保管方法を見ていきます。

まずは自筆証書遺言。
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば今日から書けるのが最大の強みです。

書き方の要件は民法968条に定められています。
全文・日付・氏名を自分の手で書く、印を押す。財産目録だけはパソコン作成も認められますが、本文の自書は必須です。

費用がかからない一方で、弱点もあります。

  • 方式を1つでも欠くと無効になる(日付漏れ・押印漏れなど)
  • 自宅保管では紛失・発見されない・書き換えられるリスクがある
  • 自宅保管の場合、相続の開始後に家庭裁判所の検認が必要になる

この弱点を小さくするのが、法務局の保管制度です。
1通3,900円で原本を法務局が預かってくれ、検認も不要になります。あらかじめ指定した方へ、亡くなったあとに保管の事実を通知してもらえる仕組みもあります。

自筆で書くなら、保管制度とセットにすることを前提に考えることをおすすめします。

また、自筆証書遺言の具体的な書き方と、無効になりやすいポイントは別の記事でも詳しく解説しています。

公正証書遺言の作り方と費用感|公証役場を利用するメリット

公正証書遺言ができるまでの3ステップ

次に公正証書遺言の書き方です。
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。

民法969条の方式では、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝え、公証人が公正証書として作成します。

流れを整理すると、この3ステップです。
①証人を2人用意する→②公証人に遺言の趣旨を伝える→③公証人が作成し、原本を保管する

なお証人には決まりがあり、未成年者のほか、相続人になる予定の方や、遺言で財産を受け取る方(その配偶者・親子なども)は証人になれません(民法974条)。
頼める人がいない場合は、公証役場に相談すれば紹介を受けられます。

公証役場を利用するメリットは、大きく3つあります。

  • 方式の不備で無効になる心配がほぼない……法律の専門家が作成するため、自筆でいちばん怖い「書き方のミス」が起こらない
  • 原本が公証役場に保管される……紛失や書き換えの心配がない
  • 検認が不要……これは民法の条文にはっきり書かれています

前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。 (民法第1004条2項)

検認とは、相続が始まったあとに家庭裁判所で遺言書を確認してもらう手続きのこと。
公正証書遺言なら、残されたご家族はこの手続きを省いて、すぐ相続の手続きに進めます。

費用のしくみは、財産の額に応じて決まる手数料+遺言加算1万3,000円(財産の合計が1億円以下の場合・2025年10月改定後の現行額)など。
あわせて数万円程度になることが一般的です。

正確な金額は財産の内容で変わるため、公証役場に見積もりを確認してください。

データで見る|公正証書遺言は年12万件、保管制度は年2万件

2つの遺言書が実際にどれくらい使われているか、数字で見てみます。

公正証書遺言の作成件数は、2025年(令和7年)で123,891件。
年間12万件規模で使われている、遺言の定番の方式です。

一方、自筆証書遺言の保管制度も、2020年の開始から利用が広がり、2024年(令和6年)は23,419件。
年間2万件を超える人が「自筆+保管制度」を選んでいます。

件数では公正証書が主流。

ただ、保管制度の登場で自筆証書遺言の弱点だった保管と検認の問題が小さくなり、自筆を選びやすい環境が整ってきた。
——これが相続の備えをめぐる現在地です。

どちらを選ぶべきか|相続の状況で決める3つの判断基準

考えるシニア男性

ここまで見てきた違いを踏まえて、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶべきかを考えます。判断基準は3つです。

①相続で争いになる心配があるか

少しでも争いの火種があるなら、公正証書遺言を選んだ方がリスクは少ないです。

相続人どうしの仲に不安がある、財産の分け方に差をつける、相続人以外に財産を残す——こうした場合、遺言の有効性そのものが争われることがあります。

公証人が作成した公正証書は、方式面の弱点がない分、争いになっても「無効ではないか」と主張される隙が少ない遺言書です。

②財産の内容が複雑かどうか

不動産が複数ある、財産の種類が多いなど内容が複雑な場合も公正証書遺言が安心です。

書く内容が複雑になるほど、自筆では書き方のミスが起こりやすくなります。
逆に、財産がシンプルで分け方も明快なら、自筆+保管制度で十分対応できます。

③費用と手軽さをどこまで重くみるか

まず一歩を踏み出したいなら、自筆+保管制度(1通3,900円)です。

数万円の費用がハードルで先延ばしにするなら、自筆で書いて保管制度に預けるほうが、何も残さないよりずっと確実です。

必要になれば、あとから公正証書で作り直すこともできます。

遺言書は、内容が重なる部分については新しい遺言が優先される決まりです(民法1023条)。
そのため、「まず自筆で残し、内容が固まったら公正証書で作り直す」という段階的な進め方も選べます。

2026年の民法改正で遺言書の選択肢が広がります

遺言書の種類をめぐっては、知っておいてほしい最新の動きがあります。

2026年(令和8年)6月に、遺言のルールを変える民法などの改正が成立しました(令和8年法律第45号)。

  • 押印の任意化……自筆証書遺言などで求められてきた押印が、任意になります
  • 保管証書遺言の新設……パソコンなどの電子データで作る遺言書が新たに認められ、法務局で保管する仕組みができます。いわば「第3の方式」の誕生です

注意していただきたいのは、どちらもまだ施行されていないこと。
押印の任意化は公布から1年以内、保管証書遺言は3年以内に施行される予定で、現時点の自筆証書遺言には、これまでどおり押印が必要です。

ただ、国の方向ははっきりしています。遺言書は、これからもっと書きやすくなるということです。

なお、遺言書とあわせて進めたいエンディングノートとの使い分けは、別の記事で詳しく解説しています。

介護の現場から伝えたいこと

シニア男性にカウンセリングする介護士

介護の現場にいると、遺言書の「作り方」よりも先に、「タイミング」の大切さを感じます。

自筆証書遺言にも公正証書遺言にも、共通の前提事項がひとつ。
本人に判断能力があるうちにしか作れないことです。

体調を崩してから、認知症が進んでから——そうなってからでは、どちらの方式も選べなくなることがあります。
「どちらにしようか」と比べられる現状は、実は恵まれたタイミングなのです。

「完璧な遺言書を目指して先延ばしにするより、今できる方式でまず残す。内容は、状況が変わったら書き直す。」

現場で多くのご家族を見てきた立場から、この順番をおすすめします。

まとめ|遺言書の種類と選び方

最後に、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いをまとめます。
どちらが向いているか、ご自身の状況に応じて参考にしてください。

【自筆証書遺言+保管制度の特徴と向いている方】

  • 費用を抑えて、今日から一歩を踏み出したい
  • 財産がシンプルで、分け方も明快
  • 保管制度(1通3,900円)を使えば検認も不要になる

【公正証書遺言の特徴と向いている方】

  • 相続で争いになる心配が少しでもある
  • 不動産が複数あるなど、財産の内容が複雑
  • 費用は数万円程度かかるが、方式の不備で無効になる心配がほぼない

先述しましたが、どちらを選んでも効力は同じ。
大切なのは方式の優劣ではなく、判断能力があるうちに残すことです。

また、財産のリスト作りには、ネット銀行や証券口座などのデジタル資産の整理も欠かせません。

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難しく考えなくて大丈夫です。まずは紙とペンを用意して、誰に何を残したいかを書き出してみてください。
その小さな一歩が、ご家族の迷いをなくす、いちばん確実な備えになります。

この記事の監修者

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yusuke /介護福祉士・FP3級

介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。介護の現場で見てきた「本当に困ること」をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。

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