超高齢社会に安心の備え!「家族信託」で資産を守る

家族信託と 任意後見制度の 併用について (2)
24855294 S

はじめに

我が国の総人口は令和6年10月1日現在1億2,379万人となっています。その中でも65歳以上人口は3,625万人となり、総人口に占める割合が29.3%となっています(内閣府調べ)。今後も総人口は減りつづける一方で、高齢化率は高まりつづけ、2040年には人口の2.6人に1人が65歳以上となる社会が訪れることが推計されています。

一方、個人が保有する金融資産は、令和6年3月末の時点で2,199兆円と過去最高を更新しました。その内、60歳以上が保有する金融資産は全体資産の約60%以上にも上ると推計されており、さらに、別の統計で認知症患者が保有する金融資産が全体の約11%にも及ぶ255兆円になると試算されています。また、日本の金融資産の多くは「現金・預金」でありその額は1,118兆円と、個人金融資産全体に占める比率は50%を超えています。

仮に金融資産を保持していても、自身の判断能力が低下してしまった場合、金融資産は凍結されてしまいます。つまり処分することができない資産が255兆円あるとも言えます。自身のお考えがあったとしても、表明できなくなってからでは遅いです。その場合に取れる手段には、主に次の3つが挙げられます。

①家族信託

②法定後見・任意後見(成年後見制度)

③財産管理委任契約

今回は、特に①の家族信託について、制度の概要やメリット・デメリットをまとめてお伝えいたします。ご自身の財産をどのように守っていけばよいのか迷われている方はぜひご一読ください。

家族信託とは?

22011708

信託とは、ある人(委託者)が自身の資産を別の人(受託者)に託し、受託者がその資産を第三者(受益者)のために管理・運用する法的な仕組みのことです。様々なアレンジメントが可能で、柔軟性が高く目的を達成するために広く利用されてます。その中でも家族信託とは、受託者を家族に依頼し財産管理をお願いすることを指します。民事信託と呼ばれることもあります。

1つ、身近な実例をあげてみます。

例:高齢の父が委託者となり、自身の有するマンションを長男に託し経営してもらうことにしました。
このとき長男が受託者となり、財産(マンション)を運用管理することになります。経営によって生ずる家賃収入は父がもらえるようにすることで、父を受益者とします。これにより父は、生前に財産(マンション)から生ずる利益を受けることが可能です。
また、父が死去した場合に財産(マンション)を長男に残すという契約を結んでおくと、マンションは相続財産とならずに長男の手にわたることになります。

ここでは、受託者(父)⇒委託者(子)⇒受益者(父)という流れが出来ていることがお分かりいただけるかと思います。もちろん、受益者を父だけでなく母と共同で設定することも、生前から財産を渡す目的で子を受益者とする信託契約を交わすことも可能です。
これによって、生前から財産を渡すことができ相続発生時のトラブルを避けたり、場合によっては税負担を軽減することもできるでしょう。近年、注目を集めているのはその点が大きくクローズアップされているからといえるかもしれません。

家族信託のメリット

27450656 S

家族信託を検討するにあたりメリットとしては次の3点が考えられます。

  1. 財産管理が柔軟に行える
    • 設定者の判断能力が十分であっても、仮に判断能力が落ちてきてしまっても、内容を変化させることなくあらかじめ決めておいた形で管理できます。
    • 管理者を家族に設定することも可能ですので親族間で相談して決められるのも強みです。成年後見制度では裁判所が指定した人が後見人となるのが一般的です。
  2. 収益を前提とした財産運用も行える
    • 後見制度を利用すると、所有している財産は後見人のために運用されます。つまりご家族のためには利用できません。たとえば、事業拡大のために出資を依頼しようとしても、被後見人へ依頼することは不可能です。
    • しかし、信託契約では運用益を受益者に渡す、という設定が可能なため設定契約に応じて不動産の処分を行えます。先ほどの例のように、不動産の家賃収入を運用益とすることが挙げられます。
  3. 裁判所の関与がない
    • 信託契約は当事者間の契約ですから裁判所への報告は不要です。
    • 後見制度では、定期的に財産管理や身上監護について報告を行う必要があります。

家族信託の設定方法

  1. 目的を明確化する
    • どの資産を信託に入れ、何を達成したいかを明確にします。
    • 契約内容も検討しておくとよいでしょう。
    • 信託契約では、遺言書の代わりを果たすことも可能です。さらに、遺言書では自身の次の世代までにしか財産を残すことはできませんが、信託による遺言を検討すると孫の世代にまで財産を残してあげることが可能です。かわいい孫に何か残してあげたい、とお考えの場合には信託契約の利用を検討してみましょう。
  2. 関係者を選定する
    • 受託者と受益者を慎重に選びます。管理人は法的責任を持って資産を管理します。家族信託であれば、委託者=受託者となるケースが多いです。つまり自身の財産を誰かに運用してもらうが、利益は自分が受け取るようにしたいという目的を叶えることができます。
    • その際に、信託監督人を選任しておくと、適切に信託業務が行われているか、すなわち受益者の利益を守れているかを確認することができます。法律の専門家や安心できる方を選任するのがよいでしょう。
  3. 信託契約書を作成する
    • 信託条項を定めた契約書を作成します。
    • 専門的な内容になる場合は、対象となる方に事前に相談するのはもちろんのこと、複雑な事例になる場合には法律の専門家にも事前に相談しておきましょう。
23581334

家族信託のデメリット

一見万能のように感じる信託契約ですが、落とし穴もあります。詳しくは別の機会にもご説明しますが、大きなデメリットとして挙げられるのが次の2点です。

  1. 身上監護権はない
    • この点がいわゆる任意後見や法定後見との違いです。今回は詳細を省きますが、信託は財産運用を主とした契約であるのに対し、後見は身上監護まで含めて被後見人を代理する権限があると解釈されています。
    • 具体的には、成年被後見人の住居の確保及び生活環境の整備、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続などが挙げられます。信託契約のみでは対応しきれない場合が起こりえます。
  2. 信頼関係に基づいている
    • 一度預けた財産は受託者によって、ある程度自由に運用されます。契約にのっとっていれば、ローンを組むことも可能です。よって、どのように使われるのか心配であったり、場合によっては悪用されるのではないかと不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。ご家族を受託者とするのが不安な場合は、信託銀行などの第三者機関に依頼することも可能です。その分費用はかかりますが、安心安全を優先するような場合は有効な選択かもしれません。
    • 親族間で不公平の無いように、信託業務の内容を設定することが肝要です。

まとめ

家族信託は財産管理を考える上では非常に有効な手段ですが、設定には複雑な手続きが伴うこともあります。また、信託契約設定後も定期的な見直しや管理は必要です。信託契約の各条項を、現状の財産状況やご親族の状況に即して更新していくことが、長期にわたってその効果を最大限に保つ鍵となります。

後見制度との相違点もありますので、ご自身にとってよりベターな選択を行えるようしっかり検討し判断いただく必要があります。一義的に信託をとらえてしまうことなく、ご家庭の状況に応じた選択を行いましょう。

執筆者

黒澤正人

保有資格:
  • 行政書士
  • 教育情報化コーディネーター3級
  • 進路アドバイザー
  • HSK3級
経歴:
  • 立教大学法学部 卒業
  • 2005年から大手学習塾で教鞭をふるい、現場のマネジメント業務もこなす
  • 2023年度行政書士試験にて合格
現在の業務内容:
  • 会社設立時の手続き
  • 契約書類作成
  • 遺言書などの相続手続き
可能な業務:
  • 法律関係のライティング
  • 法律関係の記事監修
  • 経営相談
目次