デジタル遺産と個人情報保護の関係は?デジタル終活で死後のプライバシーを守ろう

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PCやスマートフォンなどが生活必需品の一つとなった現代では、個人の記録や思い出、重要なデータまでもデジタル空間に残しています。

デジタル記録を残したまま亡くなった際には、それらはすべて「デジタル遺産」と呼ばれるようになり、死後に残される「もう一つの遺産」として新たに注目されています。

デジタル遺産には実は慎重に対処すべき重大な課題が存在しています。それが「個人情報保護」との関係です。

亡くなった人のデジタル情報の取り扱いと対処方法について詳しく解説します。

目次

そもそもデジタル遺産とは?

まず、デジタル遺産とは、亡くなった方が生前に使用していた電子データやオンラインサービスの利用履歴などを指します。

デジタル遺産は大きく分類すれば、ハードウェアに残された遺産とWeb上やクラウド上などに残されたソフトウェア遺産の2つがあげられます。

ハードウェア遺産スマートフォンやパソコンに保存されているデータ(写真、動画、文書など)
ソフトウェア遺産メールやクラウドストレージ(Gmail、iCloud、Dropboxなど) サブスクリプション契約(Netflix、Spotify など) オンラインバンキングや証券口座、仮想通貨ウォレットなど金融資産にかかわる情報 など

これらのデジタル遺産は、個人の思いが遺された遺産と経済的価値のあるデジタル資産とに分けられ、適切に整理されなければなりません。

他人に悪用されるリスクがある一方で、家族がアクセスできなければ資産も想い出も「取り戻せない」ことになります。

デジタル遺産は見ても良い?

デジタル遺産には故人のプライバシーに深くかかわるような、親族といえども他人には知られたくない情報が含まれていることが少なくはありません。しかし、一方ではデジタル遺産にアクセスして確認しなければ遺産整理が完了しないケースも増加しています。

たとえば、

  • 通帳や証券口座の情報がデジタルでしか残っていない
  • 故人の資産がすべてインターネットバンクや証券で管理されている
  • 葬儀に呼ぶべき知人の連絡先がスマホにしかない

などの事例です。

その反面、故人が使っていたPCやスマホを開いたら、

  • 「家族には見せていなかった悩みや隠していた趣味などが記録されていた
  • パソコン内に心の内を書き綴った“電子日記”のようなデータがあった

などの本来見るべきではなかった、あるいは知りたくはなかった情報までも見てしまうことも考えられます。

遺産管理としてデジタル遺産にアクセスしなければならない場合は少なくありません。

しかし、遺族は、同時に故人のプライバシーに踏み込む覚悟も必要と言えるでしょう。

個人情報保護法とデジタル遺産との関係

デジタル社会の成長にともなって生きている私たちの個人情報に対する意識も高まり、「個人情報保護法」という法律で守られています。

しかし、実は亡くなった方の個人情報は、この法律の対象範囲ではありません。

(引用)

個人情報保護法

第二条 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項をいう。

引用:e-GOV法令検索|個人情報の保護に関する法律

現在の日本で、故人のデジタル遺産に対する法整備は欧米諸国と比較して、遅れているというのが現状です。

アメリカでは「死後データアクセスおよび使用権法(Revised Uniform Fiduciary Access to Digital Assets Act)」が施行され、EUでは「一般データ保護規則(GDPR)」内でのデジタル遺産に関する保護取り組みが進められています。

なぜ法制度が追い付いていないのか?

日本の民法では財産は相続の対象となるため、デジタル遺産もその範囲に含まれます。しかし、デジタル遺産にはSNSアカウントやサブスクリプション契約といった、契約者本人に限定される権利が多く含まれるため、実際には相続の対象外と判断されるケースも少なくはありません。

デジタル資産は、従来の遺産と比較して継承すべき資産かどうかの線引きが難しいという側面があり、また、故人に対する個人情報保護の意識が欧米と比較して成熟していない点も法整備が遅れている理由の一つとして考えられます。

デジタル終活で死後のプライバシーを守ろう

デジタル資産には、「遺産相続として遺された家族に伝えたいこと」と「故人のプライバシーにかかわるので他人には知られたくないこと」の二つの正反対な情報が存在しています。

デジタル化がとても速いスピードで進行し、法的な整備が追い付いていない現代では、死後のプライバシーも自分自身で守らなければなりません。

そのためにも、生前にデータを分類整理しておくデジタル終活の重要性がますます高まっています。

デジタル終活を成功させるポイントをご紹介します。

デジタル資産の整理と分類

デジタル終活を始める際には、現在保有しているデジタルデータを分類して整理をする必要があります。

デジタルデータは大きく3種類に分類できます。

金融資産インターネットバンキングの情報 ネット証券などの口座 仮想通貨ウォレット Eウォレットの残高 など
契約スマホ、Wifiなどの契約 動画や音楽などのサブスク ドメイン・サーバー契約 SNSアカウント(X、Facebook等) 有料サイトやゲームなどのアカウント など
故人の記録写真・動画(ハード・クラウド) メールやチャットなどの履歴 メモ・日記・ドキュメント など

金融資産に関連するデジタル資産は継承できなければ、遺産の相続が難しくなります。また、契約関連の情報は伝達しなければ死後も継続的に利用料や契約料が発生し家族に迷惑をかけるケースも考えられます。

しかし、故人の記録はできるだけ家族に見られないように処分してほしいと考えるのではないでしょうか。

パスワード管理と共有

これらのデジタル遺産にはアクセスするためのIDやパスワードの管理と万が一に備えた共有が重要です。

管理をする際には、サイト名、URL、ID、パスワードに加えてサービス内容なども添えて、ノートや専用の記録アプリなどを活用した一元管理が理想です。

そして、信頼できる家族や弁護士にマスターパスワードの保管場所やアクセス方法を伝えておく必要があります。

同時に亡くなった後のデジタル資産の取り扱いに関しても、メッセージとして残しておくことをおすすめします。

たとえば、「SNSは削除してほしい」「家族写真は保存してほしい」具体的な指示を残しておけば遺族も処分に迷わずにすむでしょう。

また、どうしても見られたくない写真や文書、動画などは、事前に外付けハードディスクなどに切り分けておくのもプライバシーを保護するには有効な手段です。

まとめ

デジタル遺産は、形のない記録でありながら、確かにその人の人生の一部を映しています。

デジタル遺産を何も残さずに亡くなるというのは不可能と言えるでしょう。

今後、デジタル遺産の「引き継ぐべきもの」と「引き継がないもの」の整理・分類はますます重要な課題となることは間違いありません。

そして、それらをどのように残していくか、また伝えていくかは人生のしめくくりに向き合う大切な一歩です。

「デジタル終活」の準備は、日頃デジタル活用をしながら同時にスタート可能です。

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