相続放棄の手続きとその影響

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目次

1.はじめに

相続放棄とは、相続人が自らの相続権を放棄する手続きのことで、財産を相続しない代わりに債務や借金も相続したくない場合に必要となります。近年、手続き件数は増加傾向にあり、令和4年度は1年間で26万件と、これは過去最多の数値となっています。

では、なぜ今相続放棄が増えているのでしょうか。実際にどのような場面で相続放棄を選択するのかを踏まえつつ、手続き方法や相続放棄のメリット・デメリットについてお伝えいたします。

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2.相続放棄の選択が考えられる場面

相続手続きにおいて、各相続人には単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢が与えられています。実際の例を交えて確認してみましょう。

ケース1:親の事業が失敗し多額の借金が残っている

財産よりも借金の額が多いような場合、相続放棄を選択することで借金の返済義務から逃れることができます。親が生前行っていた事業がうまくいっておらず、消費者金融や銀行からの多額の借金を抱えており、返済能力を超える借金を残して亡くなられた場合には、相続人は故人の財産だけでなく、その借金も引き継ぐことになってしまうからです。

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ケース2:故人が所持していた不動産の価値が著しく減少している

近年、増加傾向にある空き家問題とも関連しますが、故人の所有している不動産に価値がないと判断されるような場合です。例えば、老朽化していて修繕費用がかさんだり、立地条件が悪く売却や活用が難しかったり、あるいは地価の下落によりローンの残債が不動産の価値を上回ったりすることが挙げられます。

このような不動産を相続すると、維持管理費用やローンの返済などで相続人の負担が増大する可能性があるため、相続放棄を選択することでそれらの負担から逃れることができます。なお、不動産に関しては令和5年から始まった相続財産国庫帰属制度もありますので、郊外の土地や建物を相続する場合には相続放棄のほかにそちらを利用することも可能となっています。

ケース3:財産が多く複雑で相続税が高くなる可能性がある

大きな額の遺産を相続したり財産が複数あったりすると、相続税の負担が重くなることがあります。相続する財産の価値が高い場合、相続税の支払いが相続人の経済状況を圧迫する可能性があります。相続人がその税負担を支払うことが難しい、または支払いたくない場合には、相続放棄が検討されることがあります。

仮に相続財産が5億円で、子ども2人でそれを相続する場合には、それぞれに7,605万円の相続税がかかってしまいます。相続税は、原則として相続が開始したことを知ってから10か月以内に納付する必要があるため、その支払いが難しい場合には放棄を選択せざるを得ないかもしれません。大きな財産がある場合には、生前から相続税対策は必須と言えるでしょう。

ケース4:家族間でトラブルが起こりそう

相続が原因で家族間の争いが起こることがあります。特に、遺産分割協議がスムーズに進まない場合や、故人の遺志が不明確である場合などは注意が必要です。このような家族間のトラブルを避けるために、あえて相続放棄を選択することで、自らが争いの火種から離れる決断をすることがあります。

遺産分割協議が進まない場合は遺産分割調停となります。令和2年の調査では、年間約5800件の遺産分割調停が行われていますが、その内8割以上は遺産総額5000万円以下の事件であり金額が小さくとも争いになることは十分に考えられることです。

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3.相続放棄の手続きについて

民法第915条にて、「相続人は、相続開始があったことを知った時から3ヵ月以内に相続放棄しなければならない。」と規定されています。法定期間内に放棄の意思を表示しないと、相続人は自動的に相続財産を受け継ぐことになります。これを法定単純承認といいます。相続があったことを知った時というのが起算点となり、被相続人の死亡日と同じになるとは限らないので注意しましょう。例えば、海外に旅行に出ていて手紙を見たのが帰国後だったというようなケースが考えられます。

手続き方法は意外とシンプルです。相続放棄申述書を記入し、被相続人の住民票除票又は戸籍附票と、放棄を希望する方の戸籍謄本とを一緒に被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に提出することで完了です。

ご自身が東京にお住まいでも、被相続人が北海道に住んでいたという場合には、北海道の家庭裁判所に申述書を提出することになりますが、必要費用は印紙代800円と切手代となっており金銭的な負担も少なく手続きが可能です。

なお、相続放棄は、他の相続人の意志にかかわらず単独で行うことができるのも特徴の1つです。申請した手続きが却下される確率はおよそ0.25%で、400件の内1件程度ですから、きちんと書類が整っていれば問題なく手続きが通るといえるでしょう。

ただし、相続人が未成年者や無行為能力者である場合には特別代理人の選任が必要となりますので併せて選任の申立てを行いましょう。

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4.相続放棄のメリット・デメリット

①メリット

・負の遺産からの保護:最大のメリットは、故人が残した借金を引き継がずに済むことです。相続放棄を行う

ことで、返済の責任から逃れ自身の財産を守ることができます。

・精神的な負担の軽減:遺産管理や清算手続きは精神的にも時間的にも大きな負担となります。現役世代で働

きながら遠方地の不動産を管理するのは苦労することでしょう。相続放棄により、これらの手続きから解放されることとなります。

・家族関係の保持:相続によって家族間で争いが生じることがありますが、相続放棄によって自身が相続を放

 棄することで、残された財産を巡る争いから離れ、家族関係の悪化を防ぐことができます。相続放棄を選択される最も多い理由は、他の兄弟が相続するからというものです。

②デメリット

・有益な財産の放棄: 相続放棄は一切の財産を放棄することを意味します。そのため、借金だけでなく有益な

財産や価値ある遺産も受け取ることができなくなります。

・取消ができない: 相続放棄をするには、期限内に家庭裁判所に申し立てを行うため、相続放棄は一度行うと

取り消すことができません。後で見つかった遺産を入手したくなっても不可能となります。そうならないよう3か月の期間中に財産調査を行うことが可能です。重大な決断となりますので慎重に考える必要がありますね。

・他の相続人への影響:相続放棄をすると、相続順位が変動し、放棄された方の分の相続財産は相続財産が次の

順位の方に移ります。これにより、他の相続人が意図しない借金を背負わされる可能性もあります。相続放

棄は単独で行うこともできますが、親族間でよく話し合うことも必要となるでしょう。

5.まとめ

相続放棄は、負債相続から自身を守る有効な手段ですが、有益な財産を失うリスクも伴います。また、家族間の関係や他の相続人への影響も考慮する必要があります。相続放棄を検討する際は、そのメリットとデメリットから総合的に判断し、必要であれば法律の専門家の助言を求めましょう。

近年は件数そのものが増加傾向にありますが、個々の状況によって必要の可否は異なります。個人の財産と密接に関わる問題ですから、専門家に相談し納得のいく決定をしましょう。

執筆者

黒澤正人

保有資格:
  • 行政書士
  • 教育情報化コーディネーター3級
  • 進路アドバイザー
  • HSK3級
経歴:
  • 立教大学法学部 卒業
  • 2005年から大手学習塾で教鞭をふるい、現場のマネジメント業務もこなす
  • 2023年度行政書士試験にて合格
現在の業務内容:
  • 会社設立時の手続き
  • 契約書類作成
  • 遺言書などの相続手続き
可能な業務:
  • 法律関係のライティング
  • 法律関係の記事監修
  • 経営相談
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