親のデジタル遺品、どうする?子供世代が知っておくべきこと

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親のデジタル遺品、どうする?

相続や終活を意識している人が昨今増えてきていますが、その中でもデジタル遺品というものは、今後特に対策を考えていかなければいけない要素の一つです。デジタル遺品とはどんなものか、遺産に該当する財産から順番に解説をいたします。

〇相続の対象になる財産

相続の対象になる財産としては

・現金、預貯金

・不動産

・株式、投資信託などの有価証券

が代表的な相続財産です。ほかにも、保険金や死亡退職金、自動車や腕時計などの資産価値のある物やゴルフの会員権なども対象になります。これらの財産に関して、生前に整理を考える場合は売却や生前贈与などの方法になります。死後の相続では相続人同士がどうするかを決める遺産分割協議や遺言による方法となります。

〇デジタル遺品とは

デジタル遺品と呼ぶ場合、はっきりとした定義はありません。代表的なものとしては、証券会社のHPやアプリなどから売買、管理をしている有価証券やインターネットバンキングの会員情報などの資産に関する情報とスマートフォンやパソコンに保存している写真や動画、文章などの個人の情報や思い出にまつわる情報の2つに大別されます。

 ●デジタル遺品の一例

〇デジタル遺品における問題点とは

 懸念される問題点として、本人が亡くなった際に、スマートフォンやパソコンのロックを解除できない、アプリやホームページのログインID,パスワードがわからないことでデータにアクセス出来ないという状況に陥りかねないことです。

 デジタル遺品となるものは、本来は本人だけがアクセスし管理できる機密性の高いものであり、それこそが信頼性や安全性につながっています。ただし、機密性の高さが災いし、いざ本人が亡くなってしまった際に家族がデジタル遺品の存在を見つけられなかったり、知ってはいてもアクセス方法が不明になってしまったりという形でお手上げになる可能性があります。

 写真や動画などに代表されるような故人の思い出や生前の姿などを確認できる物は、家族にとっては故人を偲ぶ貴重な遺品ですし、有価証券やその他金融資産に関しては遺族の生活を支える遺産になるとともに、見つけられず放置すれば相続税などの税負担の可能性を見落とす一因にもなりえます。

そのため、終活、相続対策として、認知症などで自身の判断能力の低下が起こる前に対策を考えておく必要があります。

〇判断能力の低下が起きると

判断能力、法律的には「事理弁識能力」といいます。これは厳密には自分のした法律行為の結果を判断できる能力のことを指します。では法律行為とは何かと言えば、多岐にわたりますが、想像しやすいところでは売買、贈与などの契約行為や、遺言などの自身の意思を表明する行為などがあります。それらを自分の意志で結果を判断した上で行えるのかどうか、という判断になります。

※わかりやすいよう判断能力という表現を使用します。

 判断能力が低下し、自身で結果を判断できない場合、先ほどのような行為は原則行えないと考えてよいでしょう。民法上は「無効」となります。またそのような状況の方が法律行為を行う必要がある場合、原則家庭裁判所の審判を受け成年後見制度を活用する必要があります。

 現実としては、判断能力がないかどうか本人だけでなく家族も判断がつかず、そのまま法律行為を行おうとする場面は往々にしてあります。しかし、そのような場合、金融機関や証券会社、通信会社などで対応を拒まれる場合がほとんどです。そのため認知症その他の同様の状況に「なってしまう」前に対策を打つ必要があります。

 また、施設入居等生活の場が離れてしまう場合も十分考えられます。その場合、対策を進めようにも面会時間の制限などでなかなか進まない、という状況に陥る可能性も考えられます。

〇対策

デジタル遺品について考える場合、大きく2つに分けるべきでしょう。

  • 写真や動画、その他個人に関わる思い出や情報など

デジタル遺品として考える場合、判断能力喪失後、もしくは死後にスマートフォンやPCのロック解除ができなくてデータを確認できない、取り出せないというケースが一番多いでしょう。対策としては、事前にパスワードなどの情報を把握、管理しておくことが大事です。管理する方としては、お子さんかお孫さんになることが一般的ですが、この場合、重要なのは本人との信頼関係です。なぜ把握するのか、どういう可能性への対策なのかということをしっかり理解してもらった上で、管理方法を決めていくのがいいでしょう。

  • 金融機関、証券会社などの財産にかかわる情報

金融機関名や証券会社名、ログインID、パスワードなどの情報の管理が主となります。ただし①と同様に信頼関係や目的への理解はとても重要です。いざという時のためであること、常に管理するのではなく、普段はいままで通りであることなどを理解してもらうことが大切です。そして財産にかかわるためその他の親族の理解も非常に重要です。勝手に管理したと誤解された結果、死後相続の場面で相続人同士のトラブルに発展するケースもあります。

その対策としては、最終手段としての成年後見制度のみならず、家族信託という制度を活用した財産管理という方法も一例として挙げられます。

 またいっそ、事前にデジタル遺品にならないようにしておく、という方法もあります。簡単に言えば、有価証券は現金化し口座に預けておく、ネットバンクはその他の銀行などに預金を移しておいてもらうなどです。その上で死後に関しては、相続財産として手続きを踏むという形です。

〇対策を頼むべき相手は?

 「相続人」となる人に頼むのが一番でしょう。その中でも先に亡くなる可能性の低い方のほうが安心なので、子供や孫が第一候補になるかと思います。子供がいない方であれば、甥姪が候補となります。

ただし、個人情報や財産の情報を伝えることになるので悪用されないかどうか、ほかの親族から理解を得られているかという点で慎重に考えるべきです。実際に死後相続の場面で、ほかの親族から悪用を疑われたり、勘違いでトラブルに発展した例もあります。

親族間にトラブルを抱えていたり、皆遠方にいたり、子供や兄弟がいないもしくは亡くなってしまっているような場合はどうするかというと、第三者に依頼する方法が考えられます。

これは先述の成年後見制度も該当しますが、成年後見制度の場合は家庭裁判所が後見人を選定します。ほかには任意後見制度といい事前に後見人になってほしい人を選び契約を交わしておく方法や、死後の身辺整理などの手続きを事前に依頼しておく死後事務委任契約を活用する方法もあります。

ただし本来的には身元保証の観点からも親族間で解決できるのが望ましく、必要に応じてこれらの制度を活用していきましょう。

〇まとめ

デジタル遺品を考えることは、ひいてはデジタル遺品に属さない財産に関しても考えていくことに繋がり、終活、相続、認知症対策、財産管理など総合的に考えていくきっかけとなります。

親世代から見ると、子供たちに任せなくても大丈夫、まだまだ私は現役だ、と考える方が多いかと思います。しかしご紹介したように手遅れになってからでは遅いです。そのため、これらの対策を「保険」としてとらえ将来のために備えることこそ大切です。

また子供世代の方々からは、親の心情を理解し、将来のための対策であることをしっかりと説明することが大切です。互いにその認識が一致すればおのずと具体的な対策の話し合いが出来てくるでしょう。

一つでも争いや困りごとのない終活、相続となるよう家族で話し合うきっかけになれば幸いです。

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