「親のスマホ、そろそろ心配。でも、勝手に触るのも気が引ける」
高齢の親を持つご家族から、よく聞く悩みです。
私は介護福祉士として15年以上、高齢者やそのご家族と接してきました。現在は介護タクシーの事業者として、送迎の現場でもたくさんのご家族と関わっています。 その現場でここ最近、目に見えて増えたのが、「親のスマホ」をめぐるご家族の悩みです。
スマホの中には、連絡先、写真、お金、契約。親の生活のほとんどが詰まっています。 ですが、その中身を家族が把握できているケースは、ほとんどありません。
この記事では、高齢の親のスマホを家族がどう管理していけばいいのか、介護の現場の視点から、具体的なステップをお伝えします。
データで見る|親がスマホを持つのは「当たり前」になった

はじめに、親世代のスマホ事情がどこまで進んでいるのか、数字で見てみます。
NTTドコモのモバイル社会研究所の調査(2025年1月)によると、携帯電話を持つシニアのうち、スマホを使う割合は60代で94%、70代で84%、80代前半でも68%にのぼります。「親はガラケー」という時代は、もう終わりました。
一方で、見過ごせない数字があります。 厚生労働省の研究班(九州大学・二宮利治教授ら)の推計によると、認知症の高齢者は2022年時点で約443万人。2030年には約523万人と、わずか8年で約80万人増える見込みです。 さらに、認知症の一歩手前とされる軽度認知障害(MCI)の方も約559万人。合わせると約1,000万人、65歳以上の約3.6人に1人という規模です。
つまり、「スマホを持つ親」と「判断する力が下がっていく親」は、これからますます重なっていきます。 親のスマホの管理は、一部の家庭の話ではなく、すべての家族に訪れる「介護とデジタルの交差点」なのです。
なぜ「親のスマホ」が介護の問題になるのか
スマホの何がそんなに問題なのか。介護の現場から見ると、理由は3つあります。
①判断する力が下がると、スマホは「開かずの金庫」になる
スマホには、パスワードやロックがかかっています。 親が元気なうちは、それで何の問題もありません。ですが、認知症などで判断する力が下がると、本人もパスワードを思い出せず、家族も開けられないという状態になります。
中には、ネット銀行の残高や、支払いが続く契約が入ったままのスマホもあります。 誰にも開けられないスマホは、家族にとって「開かずの金庫」になってしまうのです。
②入院や介護の場面で、家族が「何も分からない」
親が急に入院した。施設に入ることになった。 そんなとき、家族が最初に困るのが、「親の情報がぜんぶスマホの中」という状況です。
かかりつけ医の連絡先も、親しい友人への連絡も、公共料金の支払いも、スマホが開けなければ手がかりがつかめません。 介護は、ある日突然始まります。そのときにスマホが開けないと、介護そのものが立ち往生してしまいます。
③詐欺やトラブルの「入り口」になる
シニアのスマホは、詐欺の標的にもなっています。 宅配業者をかたるSMS、偽の警告画面、不安をあおる広告。判断する力が下がり始めた親にとって、スマホはトラブルの入り口にもなり得ます。
家族が状況を把握できていないと、被害に気づくのはお金が動いた後です。 「気づいたら、有料サービスをいくつも契約していた」というケースは、決して珍しくありません。
介護の現場で見た「親のスマホ」の困りごと

実際に私が現場で見てきた中でも、スマホにまつわる困りごとは年々増えています。
送迎中のご家族から、「父のスマホが開けなくて、病院の診察券がどこにあるかも分からなかった」と聞いたことがあります。 また、認知症のお母様を介護する娘さんが、「毎月引き落とされているアプリの契約を、どうやって解約すればいいのか分からない」と困り果てていたこともありました。
どのケースにも共通しているのは、困りごとが表面化したときには、本人に聞いても答えが返ってこないという点です。
スマホの困りごとは、親の判断する力が下がってから表面化します。 「そのうち聞こう」と思っているうちに、聞ける時期は静かに終わってしまうのです。
元気なうちに始める|親のスマホ管理 5つのステップ

では、家族は何をすればいいのでしょうか。 大切なのは、「管理」といっても親のスマホを取り上げることではない、ということです。主役はあくまで親本人。家族は「一緒に整える」姿勢で進めましょう。
ステップ1:「心配だから」ではなく「一緒に整理しよう」と伝える
いきなり「パスワードを教えて」と切り出すのは、おすすめしません。 親にとってスマホは、プライバシーそのものだからです。管理されると感じれば、心を閉ざしてしまいます。
「もしものとき、私が困らないように」「一緒に整理してみない?」と、親の尊厳を守る言葉で切り出すのがコツです。
ステップ2:連絡先と契約を「見える化」する
まずは、スマホの中の大事な情報を書き出します。
- かかりつけ医・ケアマネジャーなど、もしものときの連絡先
- 毎月支払いのある契約(サブスク・アプリ・通信料)
- ネット銀行・ネット証券・スマホ決済の有無
中身のすべてを見る必要はありません。「何が入っているかの一覧」を作ることが目的です。
ステップ3:スマホの「引き継ぎ機能」を親子で設定する
パスワードそのものを家族が預かる必要はありません。 それよりもおすすめなのが、スマホに最初から用意されている「もしものときの引き継ぎ機能」を親子で設定しておくことです。
- iPhone:「故人アカウント管理連絡先」……信頼できる家族を登録しておくと、本人が亡くなった後、その家族が写真などのデータにアクセスできます(設定→ユーザー名→サインインとセキュリティ→故人アカウント管理連絡先)
- Android(Google):「アカウント無効化管理ツール」……スマホが一定期間使われなくなったとき、指定した家族にデータを引き継ぐか、削除するかを、あらかじめ決めておけます
どちらも無料で、設定は5分ほど。それなのに、まだほとんど知られていません。 なお、これらは主に「亡くなった後」に備える機能です。認知症などで判断する力が下がった場面で頼りになるのは、ステップ2の「見える化」と、後述する「ありか」の共有。役割の違いを知って、両方そろえておくと安心です。
設定を口実に、親のスマホの話を切り出すきっかけにもなります。
ステップ4:詐欺対策の設定を「一緒に」やる
迷惑SMSのブロック、迷惑電話対策、不要なアプリの整理。 こうした設定は、親と一緒にスマホを触りながらやるのがおすすめです。
「怪しい画面が出たら、押す前に電話してね」という約束をひとつ作っておくだけでも、被害の多くは防げます。
ステップ5:エンディングノートにまとめ、年に一度見直す
書き出した情報は、エンディングノートに「デジタルのページ」としてまとめておきましょう。 パスワードは本人が紙に書いて決まった引き出しに保管するなど、「ありか」だけを親子で共有しておけば十分です。
契約もパスワードも、時間がたてば変わります。帰省のタイミングなど、年に一度の見直しをセットにすると、情報が古くなりません。

認知症になってからでは、できることが限られる

「まだ元気だから、そのうちでいい」と思うかもしれません。 ですが、この備えにはタイムリミットがあります。
認知症が進んで判断する力が失われると、契約の解約や財産の管理は、家族でも簡単には代行できなくなります。 成年後見制度という仕組みはありますが、手続きには時間も費用もかかり、できることにも制限があります。
一方、親が元気なうちなら、話し合いひとつで、ほとんどの備えが完了します。 「まだ早い」と思える今が、実はいちばんの適齢期なのです。
家族だけで抱え込まない|専門家やサービスの活用
ここまでのステップは、家族だけでも進められます。 ですが、「何から手をつければいいか分からない」「親と話すきっかけがつかめない」という方も多いはずです。
そんなときは、デジタル終活を専門にサポートするサービスに相談するのもひとつの方法です。 何を整理すべきか、どう残すべきかを、専門家が一緒に整理してくれます。第三者が入ることで、親子だけでは進まなかった話が、すんなり進むこともあります。
また、携帯ショップや自治体が開くシニア向けのスマホ教室も、親自身がスマホと上手に付き合う力を保つうえで役立ちます。

介護の現場から伝えたいこと
最後に、15年間ご家族の「困った」に向き合ってきた立場から、これだけはお伝えさせてください。
親のスマホ管理は、突き詰めると「親子の会話」の問題とも言えます。 道具の設定よりも、パスワードの保管場所よりも、「もしものとき、どうしてほしい?」と話せる関係が、いちばんの備えになります。
私が現場で出会った、うまく備えられているご家族は、例外なく親子の会話がありました。 スマホの話は、その入り口にちょうどいいテーマです。「最近、スマホどう?使いにくくない?」のひと言から、始めてみてください。
深刻になってからでは、この話はどうしても重くなります。 親が元気な今なら、笑い話をまじえながら進められます。
まとめ
高齢の親のスマホは、連絡先もお金も契約も詰まった「生活の中心」です。 だからこそ、親の判断する力が下がる前に、家族で備えておく必要があります。
放置したときのリスクと、元気なうちにできる対策をまとめました。
【放置すると起こること】
- スマホが「開かずの金庫」になり、介護や入院の場面で立ち往生する
- 支払いが続く契約に、誰も気づけなくなる
- 詐欺やトラブルの被害に、気づくのが遅れる
【元気なうちにできる対策】
- 「一緒に整理しよう」と親の尊厳を守る形で話し合う
- 連絡先・契約・パスワードの「ありか」を見える化する
- スマホの引き継ぎ機能を設定し、エンディングノートにまとめて年に一度見直す
- デジタル終活を専門にサポートするサービスに相談
もし、ご家族のみでの対策が難しい場合は、専門家と一緒に進めれば、親子ともに納得のいく形で安心して備えられます。
親のスマホは、親の人生の縮図です。 話せる今こそ、最初のひと言を伝えてみませんか。
この記事の監修者

yusuke /介護福祉士・FP3級
介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。FP3級。介護の現場で見てきた"本当に困ること"をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。
出典
- NTTドコモ モバイル社会研究所「【シニア】スマホ比率 60代94%、70代84%、80代前半68%」(2025年1月調査)
https://www.moba-ken.jp/project/seniors/seniors20250828.html - 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」(九州大学・二宮利治教授の研究班による推計)
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf - Apple公式サポート「Apple Accountの故人アカウント管理連絡先を追加する方法」
https://support.apple.com/ja-jp/102631 - Google アカウント ヘルプ「アカウント無効化管理ツールについて」
https://support.google.com/accounts/answer/3036546?hl=ja




