口座凍結リスクを回避する——認知症に備えた銀行口座の管理法

Img260823

「口座が凍結されるのは、亡くなったときだけ」と思っていませんか。

実は、生きている間でも、口座は凍結されることがあります きっかけは、認知症です。

私は介護福祉士として、15年以上介護の現場で働いてきました。
そこで見てきたのは、親の預金があるのに使えず、子どもが施設の費用を立て替え続けるご家族の姿です。

この記事では、認知症による口座凍結のしくみと、元気なうちにできる5つの備えを、費用の目安つきで解説します。

目次

認知症による「口座凍結」とは|死亡時の凍結との違い

通帳を見るご家族

口座凍結と聞くと、名義人が亡くなったときの相続手続きを思い浮かべる方が多いと思います。

ですが、銀行が口座の取引を制限するのは、死亡時だけではありません。 
名義人の認知・判断能力が低下したと分かったときも、口座は事実上凍結されます

本人の財産を、詐欺や使い込みから守るためです。 悪意のない家族でも、原則として引き出せなくなります。

「家族が代わりに下ろせばいい」と思うかもしれません。
ですが、全国銀行協会は2021年の指針で、家族による引き出しを次のように位置づけています。

成年後見制度の利用を求めることが基本
家族が代わりに引き出せるのは、本人の医療費や施設入居費など「本人の利益に適合することが明らかである場合」に限った、極めて限定的な対応——。

つまり「家族だから自由に下ろせる」わけではありません。 対応は銀行や支店によっても異なり、確実な方法ではないのです。

そして、いちばん大切なことを先にお伝えします。
これから紹介する備えは、すべて「本人に判断能力があるうち」にしか手続きできません

データで見る|「認知症マネー215兆円」時代が来る

データと手元

口座凍結は、これから社会全体の問題になっていきます。
第一生命経済研究所の試算によると、認知症の人が保有する金融資産は2030年度に215兆円に達し、家計の金融資産全体の約1割を占める見込みです。

家計のお金の10分の1が、「動かせないお金」になりかねない——そんな時代が目前に来ています。

背景にあるのは、認知症の人の増加です。
厚生労働省の研究班の推計では、認知症の高齢者は2022年時点で約443万人。 2030年には約523万人に増える見込みです。

認知症人口の増加に伴い、誰の家に起きてもおかしくない。それが口座凍結の問題です。

口座凍結に備える5つの方法

では、口座凍結に備えるために何ができるのでしょうか。 ここでは5つ紹介します。

①銀行の「予約型代理人」サービスに申し込む

まず検討したいのが、銀行の公式サービスです。

三菱UFJ銀行の「予約型代理人」サービスや、みずほ銀行の「代理人予約サービス」は、本人が元気なうちに、将来代わりに取引する代理人(原則、配偶者または二親等以内の親族)を登録しておくしくみです。

本人の認知・判断能力が低下したら、所定の診断書を出すことで、代理人が入出金や解約をできるようになります。どちらも現時点では利用手数料は無料です(※サービス内容は変更される場合があるため、各銀行の最新情報をご確認ください)。

注意点はひとつ。 みずほ銀行は「申込時にすでに認知機能低下の懸念がある場合は利用できない」と明記しています。 
元気なうちに申し込むことが絶対条件です。

向いている人……まず手軽に、費用をかけずに備えたい人。取引銀行に同様のサービスがあるか、窓口で聞いてみてください。

②代理人カードを作っておく

ゆうちょ銀行などでは、本人のカードとは別に、家族用の「代理人カード」を1枚発行できます。

日常の出金を家族に任せられる便利なしくみです。 ただし、これは本来「本人の意思にもとづく日常の出金用」のカードです。 
判断能力が失われた後の利用は想定されていないため、認知症対策の本命にはなりません。あくまで補助と考えてください。

向いている人……いま現在、買い物や支払いを家族がサポートしている人。

③認知症に備えた信託商品を使う

信託銀行には、認知症に備えた商品があります。

たとえば三菱UFJ信託銀行の代理出金機能付信託「つかえて安心」は、あらかじめ指定した代理人(3親等以内の親族、弁護士、司法書士から1名)が、認知症の発症後も信託したお金から出金できる商品です。

最低信託金額や手数料については、三菱UFJ信託銀行の公式サイトまたは窓口でご確認ください。

向いている人……まとまった預金を、施設費用や生活費として確実に使えるようにしておきたい人。

④社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」を使う

すでに判断能力に不安が出はじめている場合の受け皿もあります。

社会福祉協議会が行う「日常生活自立支援事業」では、判断能力が不十分になった方(ただし契約の内容を理解できる方)を対象に、預金の払い戻しなど日常的なお金の管理を手伝ってもらえます。

利用料は地域の社協によって異なりますが、訪問1回あたり平均1,200円程度が目安です(初回相談は無料)。

向いている人……ひとり暮らしなどで、日常のお金の管理に不安が出てきた人。窓口はお住まいの市区町村の社会福祉協議会です。

⑤任意後見・家族信託で「管理のしくみ」ごと備える

より本格的な備えが、法律にもとづく制度です。

任意後見契約は、元気なうちに「将来の後見人」を自分で選んでおく契約です。
公証役場で公正証書として結び、実際に効力が生じるのは、家庭裁判所に申し立てて任意後見監督人が選任されてからです。

家族信託は、財産の管理を信頼できる家族に託す契約です。
預金だけでなく、実家などの不動産もまとめて管理を託せるのが大きな特徴です。 仕組みや詳しい費用は、家族信託の解説記事をご覧ください。

向いている人……不動産を含めて備えたい人、施設の入所契約など財産管理以外の備えもしたい人(その場合は任意後見)。

どれを選べばいい?——介護の現場目線から考える目安

5つ並ぶと迷うと思うので、ざっくりした目安をお伝えします。

  • まず無料で一手を打ちたい……①予約型代理人サービス
  • 預金をしっかり施設費用に備えたい……③信託商品
  • すでに管理に不安が出ている……④日常生活自立支援事業(急いで相談を)
  • 不動産まで含めて備えたい……⑤家族信託
  • 契約や手続きを任せる人も決めておきたい……⑤任意後見
  • 判断能力が失われる前の補助的な役割……②代理人カード

大切なのは、どれを選ぶかより、「元気なうちに、どれかひとつでも動くこと」です。

介護の現場から伝えたいこと

話し合う介護士とご家族

私は介護の現場で、このようなご家族を見てきました。
親の口座には、費用をまかなえるだけの預金がある。 それでも引き出せないから、子どもが自分の家計から立て替え続ける——。

立て替えは、家計だけでなく、心にも重くのしかかります。
そのご家族は「親のお金の話を、もっと早くしておけば」と後悔されていました。

口座凍結への備えは、手続きだけを見れば、書類1枚から始められるものもあります。
難しいのは手続きではなく、「親子でお金の話を始めること」かもしれません。

この記事が、ご家族でお金の話をするきっかけになれば嬉しいです。

まとめ

認知症による口座凍結は、どの家庭でも起こり得ることです。

【放置すると起こること】

  • 認知症と分かった時点で、本人の口座から原則引き出せなくなる
  • 家族の引き出しは、医療費や施設入居費などに限られた極めて限定的な対応
  • 施設や介護の費用を、子どもが立て替え続けることになる
  • 事後の選択肢は、原則として成年後見制度だけになる

【元気なうちにできる対策】

  • 銀行の予約型代理人サービスに申し込む
  • まとまった預金は認知症対応の信託商品で備える
  • 不安が出はじめたら社会福祉協議会に相談する
  • 不動産まで備えるなら家族信託、契約ごとも任せるなら任意後見

そして、銀行口座とあわせて忘れてはいけないのが、「ネット銀行やネット証券などのデジタル資産」です。
通帳がないぶん、家族はその存在にすら気づけません。 「どこに、何があるか」の整理から始めたい方は、デジタル終活を専門にサポートするサービスに相談するのもおすすめです。

備えられるのは、判断能力がある「今」だけ
親子でお金の話をする、最初の一歩を今日踏み出してみてください。


Image

この記事の監修者

監修者用写真

yusuke/介護福祉士・FP3級

介護福祉士として15年以上、介護現場でご利用者やご家族と接してきました。現在は個人事業主として介護タクシーを運営。介護の現場で見てきた"本当に困ること"をもとに、終活・介護・お金の話を、わかりやすくお伝えしています。

出典

目次